[班研究会] 国家・市民班第3回研究会(2017年6月17日開催)

日時:2017年6月17日(土)13:00~15:00
場所:京都大学稲盛財団記念館3階318室
(以下、敬称略)

報告タイトル:アフリカ政治における「潜在力」としての笑い
氏名:岩田拓夫
所属:立命館大学

本発表の目的は、「笑い」(laughter)という現象に注目して、「下からの政治」(le politique par le bas)というアプローチとのかかわりの中で「潜在力」として理解することができるかという問題意識を持ちながら、アフリカ政治を読み解くことであった。

アフリカ諸国は政治的、経済的、社会的側面において大きく変化を遂げる中で、研究者はフィールドワークの中で、アフリカの人々の笑いに日々出会ってきた(はずである)。笑いは、時代・場所を問わず日々の生活・活動における自然で不可欠な要素である。政治的・社会的に作り出された危機的な状況においてさえ、笑いはより創造的で革新的な仕様で出現してきた。

研究アプローチとしての「下からの政治」は、政治社会(もしくは政治的意思決定の場)から疎外された立場の人々が生き抜くための「象徴的な闘争または逃走」を読み解くことを主眼としている。この研究アプローチは、1980年代のフランスのアフリカ政治研究で大きな注目を集めた。このアプローチでは、国家や政治制度からほど遠いところで生きる、国家権力に振り回されて生きていかざるをえない市井の人々が日々の活動・暮らしの中で繰り広げてきた「政治的事柄」(le politique / the political thing)に関心が向けられている。このアプローチは、(公式な)制度の観点からは見ることができない、政治的に疎外された人々の政治的関与を記述するための視点を提供する。下からの政治は、必ずしも正義や反国家運動を実践するための行動ではないものの、抑圧された人々に政治的生存戦略を提供する。

政治と笑いは、独立後のアフリカの歴史の中で緊張関係を保ってきた。中でも、劇的な政治的変化の局面においては、笑いの特徴・性質にも大きく影響を与えてきた。発表者の主なフィールド調査国であるベナン、ブルキナファソ、トーゴ、その他のフランコフォンアフリカ諸国のケーススタディを通して考察した。

発表後、参加者からコメントや今後の研究の課題がいくつか指摘された。例えば、アフリカの政治を反映した笑いの「質的」変化はどのように現れてくるのか、政治的尺度としての「優越性」を図る基準とは、「下からの政治」アクターの区別の必要性、権力者側の「技法」としての笑いの観点の意味、など、今後の研究継続に向けた数多くの課題が明らかにされた。

岩田拓夫

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