[班研究会] 環境・生態班第4回研究会(2017年10月14日開催)

日時:2017年6月17日(土)11:30~15:00
場所:京都大学稲森財団記念館3階301号室

報告タイトル:南アフリカにおける非木材林産物の商品化と資源利用
氏名:藤岡悠一郎
所属:九州大学

今回の班研究会では、班員の藤岡が報告を行なった。前半部では、前回の班研究会における目黒の議論を整理した上で、自身が本共同研究で考えたいこととして、環境ガバナンス論の相対化と「サステイナビリティ」に対する疑義を述べた。

前回の班研究会において目黒は、環境ガバナンス論を相対化するものとしてポリティカル・エコロジーに注目した。それに対して、藤岡は農村開発論や生業研究との接合の有用性を検討した。「保全」の対象としての環境と「利用」の対象としての資源といった形で前提が違うことで、環境ガバナンス論と上述の学問領域とでは研究領域が分断されているのではないか、その接合の可能性を検討したいとのことだった。そして、開発途上国の農村に見られる、連綿と続かない生業、変わり身の早さ、不確実性を内包した対処、非平衡的な生態系などの下では、特定の資源利用におけるサステイナビリティを議論することは現実的に有効なのかという疑問を提示した。そして、資源の利用コミュニティの形成が環境のケアに繋がるという考えの上に近年提示されている「エリアケイパビリティ」の枠組みを説明した。エリアケイパビリティとは地域住民主体の資源活用におけるケイパビリティを重視するものであり、地域資源の有効活用を進めることで利用者コミュニティによる地域活動が発展し、自然・資源へのケアが充実することが想定されているとの説明だった。

報告の後半部では、藤岡が現在進めている調査について話をした。藤岡は「アフリカ潜在力」プロジェクトの第一期には、ナミビア北部の農村におけるマルーラの利用について研究を行なっていた。マルーラのような非木材林産物は、植物の再生可能部位を利用することから、持続的な現金稼得源であり貧困層のエンパワーメントにつながる資源として国際的に期待を集めている。ただし、構造的な経済格差や流通網の未発達、過重労働などの課題が指摘されてもいる。藤岡は現在、南アフリカ北東部におけるマルーラの資源利用と商品化の取り組みについて調査をしており、今回の報告では、これまでの結果を整理し、エリアケイパビリティの議論を踏まえて考察を行なった。

南アフリカ北東部の調査地では、女性によってマルーラの果汁が絞られ、そうして造られた酒は1990年代まで伝統的指導者への貢納が義務となっていた。そのかたわら、1980年代にマルーラの蒸留酒を製造する民間企業が調査地に工場を建設し、マルーラの果実の買い上げを行なうようになった。マルーラの果実は雨季直前の一か月ほどのあいだになり、誰でも工場に売ることができる。中には工場には売らずに露店で酒を販売する住民もいるが、多くの住民が向上への販売を行なっており、伝統的指導者の関与の下に協同組合が設立されるようにもなっており、さらなる起業も試みられてきた。近年、協同組合にかんしては資金の不足や戦略・能力の欠如、品質管理の不徹底などの課題も浮上しているが、企業が無制限にマルーラの果実を購入している一方で、果実にアクセスするチャンネルが地域には多様に存在することから資源をめぐる争いの様相は呈していない。また、果実販売にかかわっている住民の多くは低所得者と位置付けられる女性である時、マルーラ販売は経済的に重要な行為といえる。そして、これまでには見られなかった植林(マルーラの稚樹の植樹または挿し木)が自主的に行われるようになっており、エリアケイパビリティ論でいわれるところの「環境のケア」につながる可能性が示唆される。

以上が藤岡による報告の概要である。総合討論の場では、マルーラそれ自体の特徴や性質が確認されるとともに、利用部位が果実であり一年間の内で数カ月だけしか結実しないという条件や一社がマルーラ酒の製造および販売を独占している状況をどう評価するか、また藤岡がレビューしていた非木材林産物やエリアケイパビリティについての議論がこの事例にどのように具体呈に応用できるのかといった点が話し合われた。参加者のおおよそ一致した認識として、企業によるマルーラの商品化が地域社会に深刻な問題を生み出しているとは言い難い。ただ、例えばエリアケイパビリティ論が言うところの「自然・資源へのケア」を具体的にどのように評価するのかについては疑問が出されたし、マルーラが特徴的な景観を形成している調査地をつくり、守ってきたのは過去の人々であるのでその歴史を評価することも必要ではないのかといった指摘も聞かれた。

これまでの班研究会でも、例えば野生動物と魚とでは資源としての性質が大きく違うので、保全なり管理なりの考え方は大きく異なるはずだということが言われてきた。今回の非木材林産物もまた、そうした資源とは性質だけでなく地域における歴史や文化が大きく異なっていた。これまでの班研究会で、そうした対象の違いについては様々に議論が行われてきたので、その点を整理するとともにさらに議論を発展させることが今後の班としての課題の一つに思われる。それとともに、環境ガバナンス論、ポリティカル・エコロジー論、エリアケイパビリティ論などの理論の整理も行うことで、「環境・生態をめぐるアフリカ潜在力」をどのように規定するかについての大枠を明確化していく作業に、これから本格的に着手していくことが環境・生態班として必要に思われる。

目黒紀夫

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