【2011年度派遣報告】大山修一「サヘルにおける都市の生ゴミを利用した緑化活動と「農耕民―牧畜民」の紛争回避に関する研究」

(派遣先国:ニジェール/派遣期間:2011年10月~11月)
「サヘルにおける都市の生ゴミを利用した緑化活動と『農耕民―牧畜民』の紛争回避に関する研究」
大山 修一(京都大学アジア・アフリカ地域研究研究科・准教授)
キーワード:土地・資源をめぐる紛争, ニジェール, ハウサ, フルベ, 民族間関係

研究目的

穀倉の完成をまつトウジンビエの穂:トウジンビエは夜間、放置されたままであり、牧畜民の家畜が食べてしまう危険性がある(2011年10月28日撮影)

今回の派遣先は、ニジェール共和国中南部のドゴンドッチ周辺である。この地域において、派遣者は2000年より調査を継続している。調査村の周辺には、ハウサという農耕民が多く居住し、政府がつくった井戸の周辺に村落を形成している。フルベの村落も存在するが、フルベやトゥアレグの牧畜民はハウサの農村にも定着している。雨季には、トウジンビエ畑が一面に広がるため、近年、牧畜民が放牧できる土地は限られるようになっている。そのため、牧畜民は北上し、農耕限界を越えて、サハラ砂漠の近縁部で放牧するか、あるいは村落の周辺で耕作地を避けるように放牧活動を営んでいる。近年、農耕民と牧畜民のあいだで家畜の食害をめぐって争いが増え、武力衝突が発生している。今回の調査では、ふたつの目的があった。(1)農耕民と牧畜民のあいだで軋轢が生じるプロセスを調査し、その原因を明らかにすること、(2)都市ゴミによって荒廃地を緑化し、家畜囲いの作成によって、農耕民と牧畜民の共生をはかる取り組みをおこなうことである。

調査から得られた知見

(1)牧畜民の家畜が農耕民の耕作地の作物を食べ荒らしたとき、被害を受けた農耕民によって賠償金(ハウサ語biya)の支払いが求められることがある。その賠償金には、ラムコ(ramuko)とバナ(bana)の2種類がある。この2種類のちがいは、牧畜民に食害の意図があったかどうかである。ラムコは、家畜に作物を食べさせようとする意図が牧夫にあり、悪質とみなされ、ウシ1頭あたり4000フラン(約600円)の支払いが求められる。バナは、牧夫の不注意によって起きる食害であり、明確な意図はなく、ラムコの半額であるウシ1頭あたり2000フランの支払いに減額される。この認定には明確な基準がなく、多くの賠償金を受け取ろうとする農耕民と、支払いを減らそうとする牧畜民のあいだで交渉がおこなわれる。この交渉の結果、武力衝突に発展することがある。(2)派遣者は、ドゴンドッチ市長を訪問し、業務協定をむすんだ。協定の内容は、都市の内部に蓄積しているゴミの収集と荒廃地への投入、緑化活動を推進することによって、農耕民と牧畜民の衝突回避、両者の共生をはかる取り組みである。2011年4月までの軍事政権のもとで、行政機能は麻痺していたため、ゴミの収集業務ができない現状を市長から聞き取った。そして、ドゴンドッチ市による協力のもとで、トラクターを借り上げ、荒廃地に都市ゴミ60トンを投入し、共同放牧地の再生と家畜囲いの作成を進めた。

パーマリンク