【2012年度派遣報告】福井美穂「人間の安全保障の視座に基づくポストコンフリクト期のジェンダーに基づく暴力(Gender-Based Violence: GBV)問題の研究と実際的対応の模索」

(派遣先国:シエラレオネ・リベリア/派遣期間:2012年7月~8月)
「人間の安全保障の視座に基づくポストコンフリクト期のジェンダーに基づく暴力(Gender-Based Violence: GBV)問題の研究と実際的対応の模索」
福井 美穂(東京大学大学院総合文化研究科後期博士課程)
キーワード:ジェンダーに基づく暴力(GBV), 性暴力, 性的搾取・虐待(SEA), ポストコンフリクト期, 被害者支援

研究目的

シエラレオネの首都フリータウンの様子

本研究の目的は、ポストコンフリクト期におけるGBV対策について、人間の安全保障という被害者中心の視座を導入することで、さらなる予防の促進および法的および行政処分の徹底、そして被害者の支援・保護の強化について、より具体的な政策提言および組織的対策に関する提言につながる研究を行うことである。その一部として、特に事件直後の被害者ニーズを明らかにしつつ、加害者と仮想される職員の所属する多様な組織の行うべき予防対策および被害者支援を提言する。上記研究テーマにおける被害者支援の現状と、被害者中心の視座を導入した被害者支援の内容の理解のためポストコンフリクト期にGBVを経験したシエラレオネおよびリベリアで、フィールド調査を行った。

調査から得られた知見と今後の展開

本調査では、シエラレオネの首都フリータウンでは国連専門機関、国際および現地NGO、政府機関を含むGBV関係者のインタビューと被害者支援事業の視察、リベリアの首都モンロビアでは部隊展開する国連PKO(UNMIL)を中心に国連専門機関へのインタビューを実施した。事前の研究も含め、以下のようなことを知り得た。

ポストコンフリクトから開発への移行期にあるシエラレオネでは、政府主導のGBV対策の成果と被害者支援の現状を、未だ国連PKOが展開するリベリアでは、国連を主体とする最新のGBV対策を調査した。

シエラレオネでは、2005年の国連PKO部隊(UNAMSIL)の撤退と同時に、社会福祉・ジェンダー・子ども問題省(MSWGCA)と警察が共同議長を務める月例の性暴力委員会(後のGBV委員会)が発足した。同委員会は女性性器切除(FGM/C)、早婚、ドメスティック・バイオレンス、性暴力への対策を行い、法制度上の保護、被害者支援と予防を3大テーマとし国連機関および国際・現地NGOを含めて調整する場として機能している。これにより、国連専門機関および国際NGOの職員数の減少とともに、国内の議論は国際的支援者によるGBV、性的搾取・虐待(SEA)から上記のGBV問題へと移っていることがわかる。

政策レベルでは、欧米ドナーの後押しもあり数々のジェンダー関連政策が策定されており、立法レベルでは、人身売買禁止法(2005)、子どもの人権法(2007)、ドメスティック・バイオレンス法(2007)などが制定されている。また、国際法のレベルでは、国連安保理決議1325・1860号国家行動計画(2009)の整備などの成果を見せている。喫緊の課題は性犯罪法の整備であり、子どもに対する性犯罪が成人に対する性犯罪に対して、処罰が軽微であることなどが課題とされていた。実務レベルにおいては、性暴力被害者支援における報告指針(2008)が策定され、司法分野を支援する警察家族支援課(Family Support Unit: FSU)、医療分野を支援する公立病院、そしてメンタルケア・生活支援を行うNGOによる被害者支援センター(詳細は後述)らによる連携支援を目指している。

こうした成果の一方で、性暴力被害後の直接支援は未だ限られている。被害直後の診察・治療および診断書の発行は有料であり、経済的な理由から治療を受けられず、司法制度を活用できないケースも多い。数少ない無償支援が首都フリータウン・ケネマ・コノで活動する、米国NGOのインターナショナル・レスキュー・コミッティ(IRC)による治療とメンタルケアそして司法関連支援を行う性暴力被害者支援プログラムである。上記支援を受けた“サバイバー”は1,661名(2011)であり、そのうちの84%が未成年である。司法分野での支援もNGO「LAWYERS」による児童に対する法的支援に限られている。

紛争から10年経ち移行期にあるシエラレオネにおいては、政府の優先順位は経済復興であり、GBV被害者等の最弱者の保護は後回しとなる。結果として、紛争直後から最弱者の保護を実施してきた欧米ドナー・国連専門機関または国際NGOがGBV被害者支援を続けている。

一方、未だ国連PKOミッションが展開しているリベリアでは、国連組織を中心とする最新のGBV対策を調査した。UNMIL職員10,852名が勤務する中、2011年のSEA疑惑報告は19件(文民7、軍事要員11、文民警察1)である。うち、3件がレイプ、1件は未成年との性行為、残りの15件が性的搾取となっている。しかしながら立証されたのは1件(未成年ケース)のみであり、8件は立証されず、10件は未だ調査中である(2012年8月現在)。様々な取り組みが規範・懲罰課(Conduct and Discipline)により実施されているが、注目されるのは国連職員が起こすSGBVを対象にした初の「性暴力およびレイプ即応チーム」の設置(2006)である。同チームは、国連組織内の医療・警察・HIVエイズ・法律・児童保護・規範と懲罰の専門家から構成され、必要に応じて事件現場へ行き、被害者支援そして調査を行う。国連組織内のPKOそして特別機関を含むいかなる要員による被害であっても同様であり、被害者に対する支援の公平性の面から見て非常に有用である。しかしながら同即応チームは報告があって初めて発動されるため、報告がなければ活用できないという側面はあり、未報告事件の問題はインタビューでも確認された。また、同チームによる被害者支援の有用性が確認される必要はある。国連カントリーチームにおいては、代表である国連常駐調整官室にSEAフォーカルポイントが常駐しており、予防と対策において中心的な役割を担っており、リベリアにおけるGBV対策は「一つのピークにある」との発言もあった。

シエラレオネに現存するSGBV被害者直接支援と、リベリアにおける国連組織によるGBV対策の現状を通して、被害者支援に関してポストコンフリクト期に反映されるべき教訓は2つある。人道支援の一部として早期からGBV被害者支援プログラムを実施する必要性と、それを開発期の政府に移譲できるまで継続すること。そしてもう一つは、国連組織に存在する性暴力およびレイプ即応チームの有効活用と非国連組織においては同様の支援をいかに可能にするかを模索することである。これにより、加害者の所属組織によってギャップがあるポストコンフリクト期におけるGBV被害者支援を向上する一つのステップとなり得るだろう。

移行期にGBV被害者を保護することが、続く開発期における最弱者層の保護を確保することにつながる。ポストコンフリクトから開発への段階で失われるものの一つに最弱者層の保護があると仮定すれば、そのリンクをつなぐことで人間の安全保障に根差した開発期の発展を望むことができると言える。紛争を経験したアフリカの国における潜在力への一考察となるだろう。

公立病院内にある性暴力被害者支援センター、レインボセンターとそこで働く米国NGO・IRCの職員

リベリアの首都モンロビアにあるUNMILの遠景

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