【2012年度派遣報告】佐川徹「アフリカ牧畜社会における紛争の比較研究に向けて」

(派遣先国:セネガル、ドイツ/派遣期間:2013年2月)
「アフリカ牧畜社会における紛争の比較研究に向けて」
佐川 徹(京都大学アフリカ地域研究資料センター・助教)
キーワード:資源の共有, 紛争と協力, 社会的制裁

研究目的

朝、ウォルフの集落にある井戸に集まった近隣村の家畜(セネガル、リンゲール付近)

今回の派遣先は、セネガル共和国とドイツ連邦共和国であった。セネガルでは、サヘル地帯に広範に分布する牧畜民フルべの人びとがくらす集落を訪れ、その生活の概要を把握し、今後の調査の計画を立てることが目的であった。ドイツでは東北部の街ハレに位置するマックスプランク研究所民族学部門で開催された国際ワークショップ「北東アフリカ国境地域における紛争の相互連関性(Interrelated Conflicts in a Northeast Africa Border Region)」に参加することが目的であった。いずれも、私がこれまで調査をおこなってきたエチオピア南部の牧畜社会における紛争を、より広い視野から捉えるための他地域の紛争に関する知見を広めることも、目的としていた。

派遣から得られた知見

フルベの集落。夜にウシが眠る場所。囲いはない(セネガル、リンゲール付近)

セネガルでは、おもにフルベの人びとがくらす地域を中心とした約1週間の広域調査をおこなった。とくに同国北部のリンゲール地区では、フルベの人々がくらす村を数時間ではあるが訪問し、その生活を観察することができた。この地域には永年河川はなく、生活用水と家畜への給水の双方を井戸水に依存している。井戸は日本を含めた外国からの開発援助などによって村ごとに整備されているが、それを管理しているのは農耕民ウォルフである。ウォルフはセネガルで最大の民族集団であり政治経済的な力も有している。フルベはこのウォルフに対して井戸の管理料として現金を支払っている。この井戸利用をめぐり小さないざこざが発生することもあるという。もっとも、資源をめぐる大規模なコンフリクトはこの地域では生じていない。フルベの集落には集落を囲む高いフェンスは存在しておらず、またウシや小家畜の家畜囲いも存在していなかった。これは私がこれまで調査をおこなってきたエチオピア南部の牧畜社会では考えられない。近隣集団からの襲撃や窃盗に苛まれているエチオピアの牧畜民は、集落と家畜を守るための厳重な柵を二重、三重に設けているからである。東アフリカに比べたこの「治安の良さ」がなにによっているのか、今後考えていきたい。

ワークショップが開催されたドイツのマックスプランク研究所

ドイツでは2月14日~16日にかけて、国際ワークショップ「北東アフリカ国境地域における紛争の相互連関性」で発表した。ドイツ、フランス、アメリカ、イギリス、ウガンダ、日本などから20名近くに及ぶ発表者を迎えたワークショップであった。いずれも、エチオピア南部、ケニア北部、南スーダン南部、ウガンダ北部という4国国境付近を調査対象とする調査者である。ワークショップでは、この国境を越えた乾燥地域における紛争の相互連関性を捉えること、この地域を、J.Scottの近著(The Art of Not Being Governed)における議論と結びつけながら、「アゾミア」という地域単位として捉え地域社会と国家権力との関係の共通性を捉えること、紛争における協力行動や敵対行動を進化論的観点から分析すること、が主要な議論のポイントであった。とりわけ興味深かったのは、近隣集団への略奪にともに出向いた仲間が、その場で敵前逃亡した仲間の一人に社会的制裁を加えるか否か、という事例の分析から人間の協力行動の進化を論じた発表であった。私の調査内容もこのような観点から捉えることで、まだまだ議論を広げていく余地があることを感じた。また、私が調査地としているエチオピア南部サウスオモ県に関しては、近年の政府によるサトウキビ農場開発を始めとした「上からの」開発政策の現状に関する悲観的な見解が示され、国家と周縁社会との非対称な関係に研究者がどのようにかかわっていくかをめぐって、集中的な議論がなされた。

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