【2013年度派遣報告】古村学「自然保護地域における自然保護活動およびエコツーリズム開発、それらに対する地域住民のかかわりと対応」

(派遣国:ケニア/派遣期間:2014年3月5日〜3月23日)
「自然保護地域における自然保護活動およびエコツーリズム開発、それらに対する地域住民のかかわりと対応」
古村学(宇都宮大学国際学部・講師)
キーワード:ケニア, 自然保護, 観光, 環境,カカメガ, ナイバシャ

研究の背景と目的

本研究の目的は、観光と環境問題という二つの側面から、現代ケニア社会の検討を試みることにある。

第一に観光であるが、ケニアでは野生動物を対象とした観光が主力であるが、これは原生自然を保存しようという自然保護思想にもとづいたものである。また、近年では、住民参加や地域貢献をうたったエコツーリズムやコミュニティー・ベースド・ツーリズムが援助機関やNGOなどによって導入されている。

第二に環境問題であるが、ケニアではバラなどの園芸作物が輸出産業として重視されている。園芸作物は湖岸の大規模工場で作られており、排水による周辺環境への影響が懸念されている。この対策として、浄水設備などの科学技術に基づいた対策が考えられる。しかし、周辺環境および対策にかんしては不明なことが多い。

上記二つの現象は、近代西欧の考え方、技術と関係が深い。自然保護をもとにした観光においては、野生動物と人間との分離という、住民排除によって進められてきた。当然、排除された住民との間にコンフリクトが生じる。それへの批判と反省から、住民参加型の考え方が生まれてきたのである。もっとも、後者の考え方にしても、地域の論理というよりも、市民参加型民主主義という近代西欧の論理をもとにしたものである。大規模工場による生産、そこから発生する公害、それに対する科学的対策、これらのものが近代西欧技術をもとにしたものであることは、言うまでもない。また、周辺環境の汚染という公害は、地域住民との間にコンフリクトをもたらす。

これら近代西欧の考え方と技術にもとづいた観光と環境問題の二点の現状を知ること。それに対する、地域の人々の考えや行動を知ること。そこに、コンフリクトはあるのか、ないのか。これらのことを知ることが本研究の目的である。

今回の調査から得られた知見

第一の住民参加型の自然保護および観光であるが、カカメガの森にて調査を行った。カカメガの森は、KWS(Kenya Wildlife Service)とKFS(Kenya Forest Service)によって管理されている。両者ともに地域住民によるコミュニティ・ガイドの雇用など住民参加型の観光開発を行っている。今回の調査では、KFSを中心に聞き取り調査や参与観察を行うとともに、周辺集落での聞き取りを行った。

KFSでは、生態調査や植林などの保護活動、ガイド・ツアーやロッジ運営などの観光事業、フォレストの資源を利用した商品開発などを行っている。2011年度の大野報告にもあるように保護区設立にあたり立ち退きなどのコンフリクトも多くあった。現在は、コミュニティ・ガイドの雇用をはじめとして、保護活動や観光事業に地域住民がかかわっており、住民参加型の運営がなされている。

KFSによると、資金不足により十分な保護活動を行えていないのが現状だという。地域住民による耕作地拡大のための野焼き、有用植物の違法採取が絶えないという。また、知名度が低いためか、観光客が少ないことも指摘する。コミュニティ・ガイドによると、ガイドの仕事は一日一組あればよいほうで、誰も来ない日のほうが多いという。植林作業などの自然保護の仕事もあるが、生活は厳しいという。

地域住民からは、前記の土地収奪、フォレストがあるゆえの野生動物被害の弊害ばかりではなく、フォレストの意義も広く聞かれた。フォレストがあることにより、雨がもたらされ、農作物がよく育つという。また、新鮮な空気の供給といったように、経済活動に直接は結びつかない点での意義が広く聞かれた。

第二点目の環境問題は、ナイバシャ湖岸で調査を行った。ナイバシャ湖は、首都ナイロビから近く南岸は観光地として知られている。と同時に、大規模なビニールハウスが立ち並び、その中では輸出用の園芸作物が作られている。今回の調査では、Elsmere field study centerなどの関連機関で聞き取り調査を行うとともに、湖岸の住民からの聞き取りを行った。

Elsmere field study centerは、湖岸の環境教育をおこなっている機関である。センター職員によると、工場は水を大量に利用しており、化学物質を含んだ排水によって水質悪化が進行しているという。さらに、汚染のため水草の大量繁殖、魚への化学物質の蓄積などの悪影響を指摘する。対策が必要であるが、汚染状況に対して、ほとんど何の調査さえもなされていないのが現状だという。関係機関には、能力も資金もないため、何もできないというだというのだ。

周辺住民の意見は、二つに分かれる。工場があることに雇用が作られているという点を評価し、水草は増加しているが、魚などへの影響は少ないとする意見が一方である。それにたいし、工場の弊害を指摘するものも多い。とくに指摘されるのは排出される化学物質の問題である。水草増加による蚊の増加、汚染された魚を食べることへの不安が聞かれた。また、雇用の面でも、園芸作物を作るビニールハウス内での作業は、体力的にきついもので、賃金も安いという。さらには、安い賃金で使われるだけで、儲けたお金の大半は外に流れてしまい、近辺集落にとっては良いことはないという人もいる。

今後の調査

今回の調査は、短期間の調査であったため、不十分な点は否めない。今後は、現地で入手した文献をはじめとした文献調査を進め、現地の調査協力者と連携しながら、観光と環境問題の現状に対する知見を高めていく。そのうえで、今後の調査研究をとして、地域住民の知識を生かした対応の可能性を探っていきたい。

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