[東アフリカ・クラスター第2回研究会]山本佳奈「季節湿地の利用をめぐる住民の対立と和解―タンザニア・ボジ高原の事例―」(2012年07月14日開催)

日 時:2012年7月14日(土)15:00~17:30
場 所:稲盛記念館3階 小会議室1

プログラム

「季節湿地の利用をめぐる住民の対立と和解-タンザニア・ボジ高原の事例-」
山本佳奈(日本学術振興会特別研究員/京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科)

報告

報告では、1986年の構造調整計画の導入以降、タンザニア南部のボジ高原においてコーヒー園への転換にともなうトウモロコシ畑の狭小化が顕著になったことが述べられ、それが引き金となって起こった季節湿地の耕地化をめぐる住民の対立と和解のプロセスについて、2つの異なる事例が紹介された。ある村の事例では、土地不足の若者を中心とする耕地化の推進派と、湿地に残る神聖な森や放牧地を守ろうとする長老・村評議会・村民会議とが対立したが、推進派が独走して耕地開発をすすめた後に、1つの森と湿地(放牧地)の一部を残して耕地化することで両者が和解した。別の事例では、ある程度、湿地の耕地化が進んだ後に、村評議会が残された湿地(放牧地)の耕地分譲を決めたが、これに反対する放牧者・村民会議が、上位の行政アクター(県)に働きかけて、放牧地を確保した。

討論では、村の最高議決機関である村民会議や、1999年村落土地法で村の土地の配分主体となっている村評議会が機能しつつ、それらの決定があまりにも簡単に反故にされることが議論された。とりわけ、1つ目の事例において、村民会議で湿地の耕地化を認めなかった保守多数派が、決定を無視した湿地開発を黙認し、やがて保守派の長老も含めて次々と追従していったことに関心が集まった。 ケニアやルワンダでは同様のルール違反者がでた場合、必ずといってよいほど暴力的な制裁が加えられたり、県レベルの警察力介入や法的係争に発展したりすることが紹介され、タンザニアではいまだ人口あたりの「開発可能な土地」が比較的多く残ることによって、土地をめぐる紛争が激化しない可能性が指摘された。 
また、村民会議は、いったんは長老や村評議会など伝統や権威に従う「総意」を出しつつ、社会的・経済的な状況の変化にそぐわない場合はその評決の反故を黙認したり、あるいは村評議会の暴走を諌めるために上位レベルの行政に働きかけるなど、巧妙に紛争を回避しつつ変化を合理的に制御しているようにも見えること、こうした特徴は、村民に加えて県から派遣された地方行政官が有力なメンバーとなっているという特異なメンバー構成に因るかもしれないことなどの検討課題が提起され、今後、他のアフリカ諸国の村行政組織との比較などを通じて議論を深めていく必要性が確認された。(近藤史)

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