[生業・環境ユニット第6回研究会]目黒紀夫「『共存』に回収されるマサイ?―〈抵抗〉と〈歓待〉が交錯するケニア南部の野生動物保全の現場から」(第4回アフリカ自然保護研究会との共催、2013年1月25日開催)

時 間:2013年1月25日(金)15時30分~
場 所:稲盛記念館 小会議室2

プログラム

15:30-17:00 目黒紀夫(東京大学)
「『共存』に回収されるマサイ?―〈抵抗〉と〈歓待〉が交錯するケニア南部の野生動物保全の現場から」

要旨

アフリカの野生動物保全をめぐっては、1990年代以降、コミュニティ志向のアプローチが各地で展開されている。だが、具体的な政策やプロジェクトの形成段階に地域社会が参加できているとは言い難く、外部主体の保全の取り組みに地域社会が抵抗する事例は歓待や協働と並んで報告されてきた。そこにおいて地域社会も外部世界も現実には決して一枚岩的な集団ではなく、複数の地域住民と複数の外部者との間で同時並行的かつ競合的に複数の関係が築かれている状況を踏まえるならば、抵抗や歓待の行為主体とされる「地域社会(コミュニティ)」が今日いかにして組織・編成されているのかを再検討することも重要な課題である。

本報告ではケニア南部アンボセリ生態系のマサイ社会を対象に、国会的・国際的に推し進められる「共存」を目指した保全政策に対して、同時期に発生した2つの事例を取り上げる。一つ目の事例ではバッファローが少年を殺したことをきっかけに数百人の戦士が野生動物を殺害して回り、最終的に「コミュニティ」と政府とが国立公園の管理をめぐって話し合いを行うこととなった。一方、それとほぼ同時期に起きた二つ目の事例では地域住民が私費を投じて保全プロジェクトを開始、白人観光業者を「保全のリーダー」と称賛しつつ多様な外部組織は「コミュニティ」と協力して保全を進めるべきだとの主張が「コミュニティ」側から提起された。一見したところ2つの事例は〈抵抗〉と〈歓待〉という形で極めて対照的な出来事に見える。だが、「コミュニティ」が自らを野生動物と「共存」してきた存在として自己(集団)表象し外部者に何らかの要求を突き付けたという点で共通しており、政策目標である「共存」に「コミュニティ」が従来以上に同意しているかのようにも見える。この点について本報告では、そこにおける「コミュニティ」レベルの自己表象と具体的な行動がどのように形成されているのかを検討することを通じて、「地域」と「外部」といった空間的二分法が無効化している現状であればこそ大多数の地域住民の意向に反する形で「共存への回収」が進行している事態を明らかにする。

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