[社会・文化ユニット第12回研究会]早川真悠「渾沌を生きる:ジンバブエのハイパー・インフレーション下における混乱と秩序」(2014年01月25日開催)

日 時:2014年1月25日(土)10:30~12:00
場 所:京都大学稲盛財団記念館3階、小会議室2

プログラム

早川真悠(大阪大学)
「渾沌を生きる:ジンバブエのハイパー・インフレーション下における混乱と秩序」

報告

ジンバブエでは、2001年から法定通貨(ジンバブエ・ドル:ZD)のインフレーション率が年間100%を超え始め、2008~2009年には未曾有のハイパー・インフレーションを経験した。そのピーク時には物価が一日で2倍になるほどだったという。本報告は、2007年2月~2009年3月まで、この激動の時期に首都ハラレで人類学的なフィールドワークをおこなった早川が、人びとが混乱の時期に、どのように対処して生き抜いたのかを詳細に報告し、分析したものである。

本報告で早川は、1980年の独立以来のジンバブエ近代史を概観したあと、「ジンバブエ危機」に対する先行研究を紹介し、ローカルな住民の視点にもとづく実証的な研究があまりなされてこなかったことを指摘した。早川は、経済学の知見にもとづいて「ハイパー・インフレーション」を月率50%以上と定義する。2007年3月~2009年1月の1年11ヵ月間がこの時期にあたる。この時期には、つぎつぎにZDのデノミネーションがおこなわれ、2008年8月にはゼロが10個、2009年2月にはゼロが12個、削除されている。2008年におこなわれた大統領選挙ではさまざまな不正と暴力行為が続発し、多くの西欧諸国が経済制裁措置を発動するとともに、それまでZD紙幣を作成していたドイツの会社が印刷を停止した。市場に流通する現金が不足し、銀行口座から1日に引き出せる現金の上限額が極端に低く設定されたため、給料生活者は月給を手にできず、そのあいだにZDの価値は急速に下落していった。そのため、現金と銀行口座にある預金とのあいだで貨幣価値の差が発生するという異様な事態もおこった。2008年からは外貨が支払い手段としてもちいられ始め、2009年2月には公式に外貨化が実施されて、インフレーションは収束した。

このような不確実で流動的な状況に対して、人びとは経済生活の大部分をインフォーマル化し、創意工夫をこらして対処した。そのひとつが「カネを燃やす」というやり方である。まず、外貨をZDに両替するとき、ZDを現金で受け取らず、銀行振り込みにしてもらうことで高いレートで両替する。そしてその預金をATMで引き出して多額のZDを入手する。そしてそのZDを外貨に両替したあと、ふたたび最初の手順にもどるのである。

もちろんこうした対処法が有効なのは短期間にすぎない。「カネを燃やす」方法は、わずかに半年間ほどで破綻した。人びとはひたすらに貨幣と商品をすばやく回転させるなど、渾沌のなかでも多元的な選択肢を創出してこの危機をしのいだのである。(太田至)

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