【2011年度派遣報告】太田至“Individual Amity and Collective Enmity: Social Relationships between the Turkana and Refugees in Kakuma Area, Northwestern Kenya.”(アメリカ人類学会第110回年次大会:”Traced, Tidemarks and Legacies”)

(派遣先国:カナダ/派遣期間:2011年11月15日~24日)
“Individual Amity and Collective Enmity: Social Relationships between the Turkana and Refugees in Kakuma Area, Northwestern Kenya.”(アメリカ 人類学会第110回年次大会:”Traced, Tidemarks and Legacies”)
太田 至(京都大学アフリカ地域研究資料センター・教授)
キーワード:モーラル・コミュニティ, 対面的相互交渉, 自生的な関係, 即興性

派遣の目的と得られた知見

口頭発表する曽我さんとセッション・オーガナイザーのホルツマンさん

本派遣は、研究成果の一部をアメリカ人類学会・年次大会において口頭発表し、討論を深めることであった。ウェスタン・ミシガン大学のジョン・ホルツマンが “New Developments in East African Pastoralist Violence: Perspectives from Japanese and U.S. Anthropology” というセッションを企画し、わたしのほか、曽我亨(弘前大学)、佐川徹(京都大学)、中村香子(京都大学)、そして、ジョン・ホルツマンの合計5人が口頭発表をおこなった。そして、リチャード・ワーブナ-(マンチェスター大学)がディスカサントとして、全体に関する講評を述べたのち、質疑応答がおこなわれた。

わたしは、Individual Amity and Collective Enmity: Social Relationships Between the Turkana and Refugees In Kakuma Area, Northwestern Kenya と題する発表をおこなった。カクマ地域では、1992年につくられた難民キャンプが20年を経た今でも存在している。このキャンプには膨大な資金、労働力、情報が投入され、それがキャンプ周辺の地元民社会のなかに流出している。また、とくに1999~2000年にかけてこの地域は厳しい旱魃にみまわれ、家畜を失ったトゥルカナの人びとがキャンプの周囲に集まってきて、その日ぐらしを続けている。すなわちこのキャンプは、地元社会に対して非常におおきな影響を与えているのである。本発表では、難民と地元民との社会関係を記述・分析した。集団的にみるならば両者の関係は敵対的であり、お互いを「暴力的」「泥棒」「野蛮」などと否定的に表象するのだが、個々人の関係を詳細にたどっていくと、両者のあいだにはミルク、薪、炭、建材などの売買や、家畜の放牧をとおして、経済的な関係が対面的な相互交渉をとおして形成されているし、また、モノの授受をとおした友人関係や婚姻関係なども成立している。

一般的いうならば、道徳や規範を共有する個々の「モーラル・コミュニティ」には、(1)暴力をコントロールするしくみがあり、(2)こうしたコミュニティは自己の内部と外部を峻別し、(3)紛争を解決・抑制するしくみは外部に対してははたらかない、とされてきた。しかし、トゥルカナと難民とのあいだに自生的・即興的に共存関係が形成されていることは、上記の考え方に再考を迫るものであると思われる。

モントリオールにあるマッギル大学の人類学者ジョン・ギャラティさん(中央)の家の晩餐会

モントリオール市内の大聖堂

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