[第6回全体会議]「大きな紛争から小さな”日常的”紛争へ?:住民参加の導入とアフリカの自然保護戦略の変容」(2012年05月12日開催)

日 時:2012年5月12日(土)10:00~14:45
場 所:京都大学 稲盛記念館 3階 中会議室

プログラム

10:00~10:15 事務連絡
10:15~10:30 山越言(京都大学) 「趣旨説明」
10:30~11:30 關野伸之(京都大学) 「住民対立を増幅させる住民参加型資源管理―セネガルの事例から」
11:30~12:30 大沼あゆみ(慶應義塾大学) 「自然資源の保全インセンティブに関わる利益配分の諸形態と効果」
12:30~13:15 休憩
13:15~14:15 大村敬一(大阪大学) 「『自然=社会多様性』を目指して―グローバル・ネットワークに抗するイヌイト」
14:15~14:45 総合討論

報告

趣旨説明 山越言(京都大学)

アフリカにおける環境保護をめぐる近年の潮流、国家主導型保護政策の多様化と経済原理の導入などを紹介したうえで、アフリカにおける自然資源保護の権力と政治性、地域住民への影響とその対応を検証することの重要性が報告された。近年の研究が、環境政策に対する分析とともに、住民対応というミクロな視点をもつという特徴がある。

住民対立を増幅させる住民参加型資源管理―セネガルの事例から
關野伸之(京都大学)

セネガルの漁業と海洋保護区の設立の歴史を紹介したうえで、B共同体海洋保護区における国と地域共同体組織の共同管理、生物多様性保全と地域開発の両立をめざす設立の目的が説明された。この海洋保護区における禁漁区の設置のあり方に対する意見の対立があり、海洋保護区に設立されたエコロッジは地元住民の雇用効果を生まず、不適切な経営、利益分配をめぐる争い、運営委員会の不透明な金の流れが問題となり、経済効果が疑問視されている。環境NGOがマスメディアや企業と連携すると同時に、地方議会への議員の選出など、政治に積極的に参加し、植林プロジェクトを展開している。フランス系の企業による資金提供によって、気候変動対策として、2009年現在、3670万本のマングローブ林の植林がおこなわれた。数字上は成功したとされるが、内実は失敗とされ、評価が分かれている。この植林プロジェクトを契機としてNGOが分裂し、NGOどうしが競合している。マングローブ海域の象徴種であるThiof(ハタの1種)を利用し、海洋保護区の設置によって、個体数の増加が成果として考えられているが、その評価についても意見が分かれている。援助プロジェクトでは、友人どうしのつながりでプロジェクトを動かし、住民のあいだで資源へのアクセスの不平等と不満が生まれている。共同体海洋保護区の設立によって、グローバルやナショナルな人脈とむすびついて、ローカルな紛争が発生し、その紛争が増幅させている実情が示され、試行錯誤を繰り返しながら、対立の現場から解決策を模索する姿勢が重要とされている。

自然資源の保全インセンティブに関わる利益配分の諸形態と効果
大沼あゆみ(慶應義塾大学)

共同体ベースの環境保全(CBM)では、住民が主体となって自然資源や環境保全に取り組むことが重要である。CBMの分類として、市場の利用(商業的/非商業的)、資源採取の有無(採取的/非採取的)によって4分類に分けることができる。便益の強さとしては、商業的>非商業的、採取的>非採取的となる。金銭によるインセンティブは強く、供給量を調整することで、金銭的なインセンティブを作り出すことができる。ただし、市場の不確実性が存在することで、需要の大きさが変動し、便益の安定性に影響を及ぼす。監視にかかる報酬の定額配分では、監視努力が低く、報酬が低い場合には、その保全活動は失敗する傾向にある。監視努力の費用の増加よりも、収入の増加が大きいときには、住民の選好順位は上昇する。ジンバブエにおけるCAMPFIREのサファリハンティング収入では、ハンティング収入が大部分を占め、その6割はゾウのハンティングであった。収入の50%を地域に還元し、地域住民は生活インフラの整備に充当した。CBMでの実現可能性は、コミュニティーのガバナンスの質が重要である。発生する現金収入の利益の配分には、倫理的な配分基準が関係し、それほど簡単にはいかない。貢献に応じた支払いが生産量を最大化させることが示された。

「自然=文化多様性」を目指して―グローバル・ネットワークに抗するイヌイトの選択
大村敬一(大阪大学)

大村氏は、まず極北ツンドラ地帯にくらす先住民イヌイトの先住民運動の歴史をふりかえった。先住民運動に積極的に関与して近代国家内部で「成果」を勝ち取ることは、主流社会、つまり「白人のシステム」への同化を促進することにつながる可能性もある。しかしイヌイトは、グローバル・ネットワークに部分的に取り込まれながらも、完全にそこへ吸収されずに、「イヌイト」でありつづけてきた。それは彼らが、グローバル・ネットワークでの生き方とは異なる「イヌイトの生き方」、その生き方を支える動物と人間の交歓に支えられた生業システム、そして人間と非人間から構築される自然=文化の多様性を、運動の過程で守りつづけてきたからである。大村氏は最後に、イヌイトが目指す統治のあり方として、「近代のデモクラシー」にくわえて、モノにまで拡張した民主主義、すなわち「モノの議会」の創設についての構想を論じた。

(大山修一・佐川徹)

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