[第14回全体会議]「アフリカにおける法の補助線:法学・人類学の視点から」(2014年1月25日開催)

日時:2014年1月25日(土)13:00~16:30
場所:京都大学稲盛記念館、3階、中会議室

プログラム

13:00~13:30 事務連絡
研究会「アフリカにおける法の補助線:法学・人類学の視点から」
13:30~14:05 石田慎一郎(首都大学東京)
「趣旨説明:アフリカ法の諸問題」
14:05~14:40 雨宮洋美(富山大学)
「アフリカの土地所有権:タンザニアを事例として」
14:40~15:15 久保山力也(名古屋大学)
「Prostitutionにおける多元的正義と紛争管理の構造研究」
15:15~15:50 小宮理奈(元ユニセフ、ウガンダ事務所)
「援助の潮流:国際機関による ローカルな組織へのエンパワメントと紛争解決」
15:50~16:30 総合討論

報告

石田慎一郎(首都大学東京)
「趣旨説明:アフリカ法の諸問題」

社会を経験的かつ一般的に記述するという点において、裁判の判決文と民族誌は類似しており、相互互換性をもっている。修復的な司法や真実委員会といったオルタナティブ・ジャスティスは、すこぶる地域指向的であり、制度だけではなく、社会のあり方をどう想定するのかが重要である。固有法(indigenous law)は、地域固有の法のあり方であり、その固有法が国家の枠組みに取り込まれることによって慣習法(customary law)となる。柔軟で常に動態的な<生ける法>としてのアフリカ法を固定してしまうことをゾンビ法化と称したい。アフリカ慣習法の柔軟性は社会内部の多様性と歴史性への視点を確保するためのものであり、規範性を退け、裁判官による恣意的な運用を認めるものではけっしてない。アフリカ慣習法における新しい規範形成が今後の大きな課題となる。

雨宮洋美(富山大学)
「アフリカの土地所有権―タンザニアを事例として」

アフリカの土地問題は、土地所有権の導入過程で起こる慣習を含む固有法と、いわゆる近代法との軋轢の問題である。世界銀行は「2003年土地政策」を打ち出すことによって、アフリカ諸国の市場経済化を進め、集団的または共同体的などと称される権利を個人的な権利への転換が推進された。2006年ころより、世界銀行による土地権利に対する調査、それにもとづいて、土地政策は変化している。法制度の問題が貧困問題の根幹だという前提にたち、貧困層の法的エンパワーメントの枠組みにのっとり 司法と法の支配へのアクセス、とくインフォーマルな慣習手続きにもとづくフォーマルな司法・土地行政システムを作ること、集団的権利(group right)を確保するために創造力に富んだ法的思考が必要とされる。タンザニアの土地法の特徴として、(1)「慣習的使用権」の規定、(2)入会地の明文化、(3)村土地法の構造、(4)土地の貧困対策機能、(5)慣習的な紛争処理機能の明文化の5点について検討した。アフリカにおける法整備においては、急激な変化を避けるため、個人の土地所有権から多様性を認めることの必要性、個人を基本とする土地所有権の段階的な導入が必要であると論じた。

久保山力也(名古屋大学)
「Prostitutionにおける多元的正義と紛争管理の構造研究」

久保山氏は、ケニアで「性的交渉による稼ぎによって、生計の全てもしくはその一部をたてている女性」の性を活かした生活の実体を包括的に明らかにするとともに、彼女たちが生活の過程でいかに紛争管理をおこなっているのかに着目した分析をおこなった。データはケニアの主要な都市で101人の女性に対しておこなった質問調査から得たものである。女性の多くは客とのあいだに不払いや暴行などのもめごとを経験している。くわえて8割の女性が警察に逮捕された経験がある。これに対して彼女たちは、インフォーマルな「生ける法」を用いて紛争の管理や解決を試みているし、警察に対しては賄賂の支払いをとおして争いを回避しようとしている。

小宮理奈(元ユニセフ、ウガンダ事務所)
「援助の潮流:国際機関によるローカルな組織へのエンパワメントと紛争解決」

まず小宮氏は、トップダウン型援助の見直しがはかられる過程で、ADRや修復的司法が注目され、援助パートナーとして宗教団体などのFaith Based Organization (FBO)が浮上してきた経緯を示した。調査対象であるウガンダでは、司法・警察がキャパシティ不足に陥っているため、人びとは代替的司法に紛争の解決をつよく依存している。代替的司法には地域限定のものにくわえて、全国の地方自治体に立法・司法機能を備えたLocal Council Court (LCCs)が存在する。人びとにとってLCCsはもっとも身近な司法であり、「フォーマルな」訴訟に比べて金銭的負担は少なく、その和解的アプローチはコミュニティに好ましい解決策を提供することがある。一方でLCCsには、構成員の知識不足による権限逸脱、汚職、女性の軽視、フォーマルな機関との連携不足などの問題点もある。最後に小宮氏は、フォーマルな機関が機能する以前に代替的司法をエンパワーすることは妥当か、代替的司法がフォーマルな機関のキャパシティ不足の隠ぺいに使われていないか、といった論点を提示した。
(大山修一、佐川徹)

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