[経済・開発ユニット第3回研究会]片柳真理「アフリカにおける紛争予防と開発―アイデンティティ集団の意識を考える―」、峯陽一「南アフリカとジンバブエ—不平等、紛争、政治制度の比較—」(2012年05月12日開催)

日 時: 2012年5月12日(土) 15:00~17:30
場 所: 京都大学稲盛記念館 3階 小会議室I

プログラム

片柳真理(JICA研究所)
「アフリカにおける紛争予防と開発―アイデンティティ集団の意識を考える―」

峯陽一(同志社大学)
「南アフリカとジンバブエ—不平等、紛争、政治制度の比較—」

報告

片柳氏と峯氏は現在、JICA研究所で実施している「アフリカにおける暴力的紛争の予防—開発協力が果たす役割」という研究プロジェクトのメンバーであり、本発表では、そのプロジェクトの基本的構想、および現在までの成果が紹介された。

片柳氏は、文化的集団間の不平等を水平的不平等(HI: Horizontal Inequality)と捉え、多次元の水平的不平等は紛争を誘発しやすいため、客観的・主観的な水平的不平等を拡大させない政策が必要であり、政治家は言動に注意する必要がある点を述べた。議論としては、水平的不平等とは民族間の不平等であり、このような調査を行うことによって、民族間の紛争を悪化させることはないのかという質問が出されたが、片柳氏はネパールで開発を行うアクターが水平的不平等を意識しながらプロジェクトを行ったために成功した事例がある点を強調した。また、民族集団の母数がわからないなかで、どのようなサンプリングによって現地調査が行われたのかという質問に対して、峯氏からは、正確な統計データが存在する都市部に調査地を限定し、ランダムにサンプリングを行ったと回答があった。峯氏からはまた、プロジェクト全体の考え方として、HIを分析することですべてが解決するとは考えていないが、ある集団をどのように見るのかという視点の1つとして、HIを採用しながら、統計分析とケーススタディを行っている点が説明された。また、アフリカ諸国のうち対照的な政治体制をもつ国々(例えば、南アフリカとジンバブウェ、ウガンダとタンザニア、ガーナとコートジボワール、ルワンダとブルンジ)の比較を行っている点が特徴的であることが説明された。

峯氏の発表では、南アフリカとジンバブウェのパワーシェアリングについて行った調査結果が紹介された。小さな政党が暴力によって政権を不安定にさせる能力があるうちは、複数の大きな政党によるパワーシェアリングは有効であるが、ジンバブウェの事例を見る限り、それが長年続くことによって、さまざまな政治的問題がエリートたちの間だけで決定されるようになり危険であることが報告された。また、小選挙区制の選挙では、勝者が全権を握るという民意とかけ離れた結果を招いてしまうため、文化的・社会的背景が多様な国民で構成される国の実態には適合しないこと、そのような国では比例代表制選挙が効果的であるが、その欠点としては、政治家が政党内部でどれだけ力を得るかということに意識を集中させ民意を無視してしまう傾向があることが述べられた。結論としては、永続的に完全な選挙制度などは存在せず、状況に応じて選挙制度が変わることが望ましいということだった。議論としては、選挙制度と行政を一体と捉えて、この二つがあたかも同じ動きをするように語ることに対して疑義が出されたが、今回のプロジェクトにおいては、その点は議論をしていないため、今後検討していく必要があることが確認された。(伊藤義将)

[経済・開発ユニット第2回研究会]池永伊奈生「アフリカにおける腐敗と公共性概念―アジアとの比較より」(2012年01月28日開催)

日 時: 2012年1月28日(土)
場 所: 京都大学稲盛記念館 3階 小会議室I

プログラム

「アフリカにおける腐敗と公共性概念―アジアとの比較より」
池永 伊奈生(神戸大)

報告

トランスペアレンシー・インターナショナルの腐敗認識指数(CPI)では、アフリカとアジアではそれほど大きな変化がないものの、経済成長においては大きな差が出ている。そのちがいを明らかにするのが、発表者の意図である。アフリカにおける腐敗の問題は、構造調整政策の影響や東西冷戦の終結による国際社会の変化によって注目されてきた。腐敗に対する、さまざまな研究者の定義を紹介したうえで、腐敗には政治家や官僚、民間人といったさまざまなアクターが介在していること、規模のちがいが存在することを述べた。そして、アフリカとアジアの官僚組織とその階層構造、腐敗の存在とその背景に対する仮説的な考察をおこなった。(大山修一)

[経済・開発ユニット第1回研究会](2011年11月12日開催)

日 時: 2011年11月12日(土)13:00-17:30
場 所: 京都大学稲盛財団記念館3階小会議室1

プログラム

■プロジェクトの説明  太田至(京都大)
■経済・開発ユニットの趣旨説明  世話人 高橋基樹 (神戸大)
■メンバーによる研究紹介(おひとり20分ほど)
■総合討論
■事務連絡と今後の予定

報告

本科研の研究代表者である太田至氏(京都大学)から、プロジェクトの概要と取り扱う課題群のひろがりについて説明がされたのち、各メンバーが研究内容の紹介と本ユニットで取り扱っていく研究課題について報告した。

世話人である高橋基樹氏(神戸大学)より、経済・開発ユニットが扱う課題として、紛争の要因となりうる希少化する資源を分配するプロセスで生じる失敗または、希少資源を維持するプロセスで生じる失敗をマクロとミクロな視点で、ひろく取り扱っていくことが提案された。

西浦昭雄氏(創価大学)の研究テーマ「アフリカの労働争議と調停方法」が、高橋氏によって代理で紹介された。この課題については、①裁判所のようなフォーマルな調停機能を本研究会ではどのように扱うのか、②フォーマルな調停機能を利用するのは大企業であり、この研究では少数のエリート層を扱うことになるのかというコメントが提示された。①に対して、南アフリカの真実和解委員会の事例が挙げられ、法的根拠がある調停機能だからといって研究対象から外すことはないという点が確認された。②に対しては労働争議にはエリートとは言いきれない人々が多数かかわっている点で、少数のエリートに限定していることにはならないという意見が出された。また、労働者が組織化されていることの社会的な意味について掘り下げることも重要であるという意見が出された。

次に高橋氏の研究テーマである「土地制度と民族関係の政治経済学的分析」について議論された。ここでは特に土地登記の役割が注目された。例えば、土地登記が行なわれたとしても、人々はその権利を売買することはなく、事実上利用していない、土地登記を行なっても、引き続き分割相続を行なうという事例が提示された。また、逆に「登記した」という事実が紛争解決のプロセスに持ち込まれた事例も紹介され、登記の意味が多様化している、ジェンダーの視点からは女性でも登記をしたら土地を所有することが認められるという、ポジティブに機能する可能性も確認された。

池野旬氏(京都大学)は開発や発展によって生じた環境の変化や国家の政策の影響が地方にまで及んだ結果生じた紛争の事例を紹介した。具体的には農村部に建築される学校の土地確保の問題や、生活用水をめぐる地方行政と住民の紛争などが挙げられた。学校用地の確保の問題はアフリカ各地で生じており、土地登記の問題に注目することがここでも重要であるという意見が出された。

小川さやか氏(国立民族博物館)は、①東アフリカ諸国の政治経済連携によって生じる古着取引をめぐる競合と、②政治活動がストリートの古着商人(マチンガ)にまで及び、野党の援助などによって設立されたマチンガ組合がストリートで生じた紛争を解決している事例を紹介した。①に対しては中古品が国境を超えて取引されている状況が政治経済連携によって、貧困削減という方向で機能する場合と、逆にこれまで中古品取引を担っていた人々を除外する方向に動き、貧困を招く可能性も高く、注目に値するテーマであることが確認された。②に対しては、インフォーマルな人々がフォーマルな組織を作っていることが興味深いという意見や、ローカルNGOを作ると儲かるという状況が生じており、お金の流れを把握する重要性も指摘された。

伊藤義将氏(京都大学)は、エチオピア南西部の森林域で2003年より始まった森林保護活動によって引き起こされた地域の混乱を紹介した。このテーマに対しては、状況が非常に複雑になっており、行政のどのレベルの主体が調整機能として働く可能性があるのか不明確であるという点、必ずしも行政単位や村単位で意思決定がされていない場合が多く、想定されている意思決定機構を改めて客観視する必要性がある点などが指摘された。

山田肖子氏(名古屋大学)からは、「社会装置としての教育の影響」という視点から紛争を経験した国の社会科教育、市民性教育がどのように教えられているのか、教科書の分析をすすめることが報告された。今後の調査は主に民族ごとに異なる教育の歴史を持つケニアで行い、教師に注目すると、その教え方などには多様性があり実情を捉えることが難しいことから、教科書を作っている人に限定して調査を行なうということが説明された。また、貧困を削減する方策としての技能形成やskill developmentの可能性を探るというテーマも紹介された。しかし、そもそもアフリカ諸国では就業機会が少ないため、職業訓練を行なっても貧困削減にはつながらないという指摘や、徒弟のようなインフォーマル教育は評価できるが、ある一つの民族がその職業を占有し、他民族が排除される事例が紹介されたり、近年ではコンピューターなどインフォーマルな教育だけでは取得できない技術も多く、フォーマルな教育も重要である点が指摘されたりした。

大山修一氏(京都大学)は、ザンビアで現在進行しつつある、外国人投資家や、企業及び、都市に居住するザンビア人による土地取得の状況について報告した。ザンビアの事例では土地の権利を持っており、土地を外部者に取得されることから守らなければならない存在であるチーフが率先して土地を売却している点などが報告された。また、ニジェール南部サヘル地帯の牧畜民と農耕民の間で生じている土地をめぐる競合についても報告を行い、紛争を解決する方策を思考中であることが報告された。

上田元氏(東北大学)は、これまで行なってきた研究のなかでどのような紛争が見られたのかを紹介した。屋外自動車修理工と都市当局との紛争、半乾燥新開村における女性の蔬菜生産をめぐるジェンダー間の紛争、水や森の管理をめぐる紛争、漁民の資源管理をめぐる紛争などが紹介された。資源を課題として扱うが、民族内の紛争、村内の紛争、世帯内の紛争といったミクロな紛争に注目していくことが確認された。

福西隆弘氏(アジア経済研究所)からは、グローバル化は今後、投資と貿易の分野で進んで行くという視点から、外国直接投資とローカル生産者及び、労働者の関係と中古貿易と産業発展の関係に注目していくことを表明した。外国直接投資の懸念事項として、アフリカ諸国では建設産業は外国企業が中心となり、サブコントラクターとして現地企業が利用されている点、小売・流通業ではスーパーマーケットが進入し小農がなかなか入り込めていない点、園芸産業や農業分野においては適地の少ないエチオピアなどが投資の対象となっている点が挙げられた。しかし、調査手法として、統計資料の調査と現地のインタビュー調査を行なうスキームを考える必要性も指摘された。中古品の貿易については、大規模な中古品の供給がある中で産業発展に取り組んだ例はアフリカしかなく、アフリカの経済成長を考えるうえで手がかりを見出せると報告した。しかし、同時に中古品の輸入には現地の生産者の経済活動を阻害する側面もあり、生産者が輸入中古品にどのように関わってくるのかを見る必要性も指摘された。

荒木美奈子氏(お茶の水女子大)は住民主導で建設されたミニ・ハイドロミルや給水施設等を、一定の「公共性」を持った資源と捉え、その利用や管理をめぐる不一致・内紛や合意形成の過程、在来の規範・制度との接合・関係性などを明らかにしていくと述べた。質疑では、荒木氏が想定している協調的地域社会とは何をもって協調的社会と言っているのか、ある程度意思を持って紛争のない社会を目指している地域社会なのかという点が議論された。

さいごに事務局から事務連絡をおこない、メンバー相互の連絡方法と次回の開催予定(1月28日)について話合った。(伊藤義将)