[班研究会] 環境・生態班第9回研究会(2019年1月26日開催)

日時:2019年1月26日(土)13:00~15:00
場所:京都大学稲盛財団記念館3階318号室

報告タイトル:Indigenization of commercial fishing industry and its challenge for resource management in Lake Kariba, Zimbabwe
氏名:伊藤千尋
所属:広島女学院大学
報告タイトル:Commodification of non-timber forest products and its “potential”: The case of marula products in South Africa
氏名:藤岡悠一郎
所属:九州大学

今回の班研究会では、南部アフリカにおいて調査を実施している2人の班メンバーが自然資源の管理・利用について発表した。伊藤は、ザンビアとジンバブエの国境ともなっているカリバ湖における内水面漁業について、商業漁業の「現地化」政策がどのような影響をもたらしたのかを整理・分析した。藤岡は、南アフリカ北東部におけるマルーラの利用について、企業がグローバルな規模での商品化を進めるのと並行して地元のアフリカ系住民がいかに利用しているのかを明らかにした。また、それぞれ「アフリカ潜在力」の議論をいかに接合ないし発展させるかという点に関して、環境ないし生態との結び付きの中で「アフリカ潜在力」を論じるための切り口として、クロス・スケール・リンケージやレジリエンス、ケイパビリティなどのアイデアを提示した。

今回の班研究会には、翌日に開催された国際シンポジウムの発表者であるフランク・マトセ(Frank Matose)氏をコメンテーターとして招いた。マトセ氏はケープ・タウン大学社会学部の准教授であり、南部アフリカの自然資源管理に関してこれまでに調査・研究を行なってきた。マトセ氏の質問・コメントを皮切りに、問題となっている自然資源の再生産過程や生態系の中での位置付け、それを生計活動の中で利用する住民の経済状況、商品化されたものがグローバルに流通している現状、そうしたグローバルな関係とローカルな実践とを結び付けた議論の重要性などが議論された。こうした様々な論点を指摘しただけでなく、マトセ氏は2人の研究に関係する人物や組織も多数知っており、発表者にとってマトセ氏との交流は非常に有意義なものであった。これからも連絡を密に取り、さらに学術的な交流を深めていくことが合意された。

目黒紀夫

[全体会議] 第9回全体会議「言語・文学班からの報告」(2018年6月16日開催)

日時:2018年6月16日(土)15:00〜17:00
場所:京都大学稲盛財団記念館3階大会議室
司会:竹村景子(大阪大学)

この全体会議では、「言語・文学班」のこれまでの研究活動に関する報告がおこなわれた。この班の構成員は、「アフリカ潜在力」研究プロジェクトが第二フェーズに入った2016年4月以来、「アフリカ潜在力」という考え方をどのように活用しつつ、研究を深化させられるかに関する議論を続けてきた。この会議では以下のプログラムに沿って、その成果の一端が紹介され、ほかの班の構成員を含めて「アフリカ潜在力」に関する議論を深化させた。

1.「『言語・文学班』のこれまでの活動報告」竹村景子(大阪大学)
2.「北東アフリカにおけるアラビア語の動態:コンヴィヴィアル・マルチリンガリズム」仲尾周一郎(大阪大学)
3.「ヨルバ・ポピュラー音楽の成立史にみるアフリカ諸語文芸の弁証法的発展と社会志向性」塩田勝彦(大阪大学)
4.コメント:沓掛沙弥香(大阪大学)、寺尾智史(宮崎大学)
5.全体討論

まず、班長である竹村は、言語・文学班において「アフリカ潜在力」という考え方を中核とした研究がどのように議論されてきたかを紹介した。この班では、アフリカの言語表現あるいは音楽を含む言語芸術に関する研究をおこなうにあたって、第一に、ときには社会の異端者・逸脱者とみられてきた個人の創造力が、社会にどのような影響を与えてきたかを再度、問い直すこと、その際には、従来の社会規範を維持しようとする動きと、それから逸脱し、ときには伝統的な価値観を破壊しようとする芸術家たちの関係を、弁証法的に把握するという視点が有力であることが議論された。第二には、上記の研究を具体的に進めるにあたっては、表現者たちがどのようなメディアを使い、いかなる表現を用いることによってメッセージを発信しているのかを精査することが重要であることが議論された。

仲尾はまず、「アフリカ潜在力」研究プロジェクトで、この概念がどのように議論され彫琢されてきたかを概観したあと、アフリカの多言語状況に関する研究を整理した。次に仲尾は、現地調査をおこなってきた南スーダンの「ジュバ・アラビア語」、ケニアとウガンダに話者が広がる「ヌビ語」、そしてエチオピア西部で話される「ベニシャングル・アラビア語」の三つの事例を材料として、その言語使用の実態と話者たちの複雑でダイナミックなアイデンティティのあり方を議論した。そして結論として仲尾は、「アフリカ潜在力」のひとつの表れとして、フランシス・ニャムンジョ(Francis Nyamnjoh:「アフリカ潜在力」プロジェクトの海外協力者)に依拠しつつ、「コンヴィヴィアル・マルチリンガリズム」という考え方を提示した。仲尾はこの考え方が、ヨーロッパ出自の多言語/文化主義を根源的に批判しつつ、人びとが複数の言語を文脈によって使い分けつつ共存しているというアフリカ世界をよりよく理解するために、非常に有力な概念となることを論じた。

塩田は、ナイジェリアのヨルバ音楽が、在来の要素に外来の要素を取り込みつつ発展・洗練されてきた過程を、マイケル・ネオコスモス(Michael Neocosmos:「アフリカ潜在力」プロジェクトの海外協力者)の論考を参照しながら弁証法的なプロセスとして分析し、アフリカの言語芸術は社会全体の問題意識や関心事と密接な関係をもっていることを論じた。まず塩田は、ヨルバ民族とその音楽の成立史を概観した。ヨルバ音楽の代表的な楽器であるドゥンドゥン(トーキングドラム)は、オヨ帝国の宮廷文化として発展し、その後にヨルバが民族として統合される過程で各地に拡散して大衆化して、ヨルバを代表する楽器へと昇華した。また、1960年代には、西欧音楽やイスラーム祭礼音楽の影響から生まれたナイジェリアのピュラー音楽(ジュジュ、アパラなど)にドゥントゥンが取り入れられ、新たなアンサンブル形式を生み出した。塩田は、ヨルバ・ポピュラー音楽の歌詞を分析すると、共同体的な価値や社会のモラル、社会の要請と密接に関連するもの、すなわち強い社会志向性をもつものが多く、それを評価するためには西欧の芸術とは異なる視座が重要であると論じた。

コメントを含む総合討論では、ニャムンジョが提起した「コンヴィヴィアリティ」や「不完全性」という考え方の有効性と可能性に関する議論がなされた(ニャムンジョ・F、2016「フロンティアとしてのアフリカ、異種結節装置としてのコンヴィヴィアリティ—不完全性の社会理論に向けて」松田素二・平野美佐[編]『アフリカ潜在力(1) 紛争をおさめる文化—不完全性とブリコラージュの実践—』京都大学学術出版会)。
http://www.kyoto-up.or.jp/book.php?id=2112&lang=jp

太田 至

[班研究会] 開発・生業班第9回研究会(2019年1月26日開催)

日時:2019年1月26日(土)13:30-18:30
場所:京都大学稲盛財団記念館3階小会議室2

今回の班研究会では、「アフリカ潜在力」プロジェクトの研究成果となる英文論集の刊行に向けて、各メンバーによる構想発表をおこなった。当日研究会に出席した8名のほかに、欠席した4名からの発表要旨を含めて、12名による構想発表および内容に関する議論がおこなわれた。それぞれのメンバーが、いま取り組む研究の最新報告を取り上げており、終了予定時刻を2時間以上オーバーするほど議論が盛り上がった。次年度以降の研究会では、今回の構想発表をもとに、各論考の議論をより深めていくことで一致した。

原 将也

[班研究会] 対立・共生班第8回研究会(2018年11月3日開催)

日時:2018年11月3日(土)11:30 – 13:50
場所:京都大学稲盛財団記念館小会議室1

報告タイトル:対立も共生もできなくなった人びと:コンゴ川の元国境トレーダーと国家の30年
発表者:戸田美佳子
所属:上智大学

今回の班会議では、「対立も共生もできなくなった人びと―コンゴ川の元国境トレーダーと国家の30年」というタイトルで、班員の戸田による研究の進捗状況についての発表がおこなわれた。具体的には、コンゴ共和国のブラザビル市とコンゴ民主共和国のキンシャサ市で暮らす障害者が実践するコンゴ川をはさんだ国境ビジネスを対象として、国家の統制や規制の強化が進む両国において、障害者が国家といかなる関係を結んでいるのかを論じた。

発表者からは、異なる生活基盤のなかで生計を維持する障害者の姿はまさにアフリカ諸社会の「潜在力」を示す一方で、港の閉鎖という政策転換によって突如生活の場を奪われた彼らの苦悩からは対立も共生もできない個人の姿があり、こうした変化を踏まえて「潜在力」を検討し直すことが今後の課題として挙げられた。

発表後の質疑応答では、アフリカ諸社会においては都市開発など国家の介入によって生活の場を失われる現象はしばしばあり、元障害者トレーダー達の現状を把握した上で、その変化を捉えることが重要であると指摘された。

戸田美佳子

[班研究会] 言語・文学班第8回研究会(2018年11月3日開催)

日時:2018年11月3日(土)11:30~13:30
場所:京都大学稲盛財団記念館318号室

発表者1:佐竹純子(プール学院短期大学)
タイトル「文学・音楽・潜在力―アパルトヘイト後の脱植民地化」

南アフリカ共和国の国歌である「Nkosi Sikelel’iAfrika」の最初の数行にズールー語とショナ語の歌詞を加え、一貫してコールアンドレスポンス形式で歌われ、「脱植民地化の国歌」と呼ばれている歌がある。本発表では、それを材料としてとりあげ、その歌詞を読み解くとともに、それが歌われる社会的場面を分析することをとおして、文学と音楽がアパルトヘイト後の脱植民地化のプロセスに果たす役割、およびその潜在力について議論した。

発表者2:村田はるせ
タイトル:「児童書の創作の場から-ベナンでのインタビューより」
児童書の創作の場から ―ベナンでの聞き取りより―

ベナンには「アフリカの小川(Editions Ruisseaux d’Afrique:以下便宜的にERAと記す)」という児童書専門出版社がある。ERAは1998年以来、約200作の児童書を出版し、ベナンだけでなく西アフリカのフランス語公用語圏諸国に流通させてきた。今回は、2018年10月に行った、ERAで作品を発表してきた作家・挿絵画家14人への聞き取りについて報告した。聞き取った内容は文献資料からは知りえないことばかりで、ベナンでの児童書の創作と出版の歴史をあきらかにするものであった。

なかでも重要だったのは、ERAの成功の鍵である共同出版の構想の起源や、ベナンの作家・画家によるERAへの貢献に関する情報である。ベナンでは1990年代前半までは児童書出版の可能性がほとんどなかったが、作家・画家たちはベルギーやフランスの文化支援の枠組みで行われたワークショップを通して知り合い、児童書作家画家協会(AILE)という組織をつくり、創作活動を始めていた。同時に、ERAの創設者で作家のベアトリス・ラリノン・バド氏も、周辺国の小さな出版社同士が契約し、共同出資をするという構想をたずさえ、児童書出版を開始しようとしていた。これらの人々の複合的な活動により、ベナンは西アフリカのフランス語公用語圏のなかでもとりわけ多くの児童書を出版する国となったのである。

作家・画家たちは、みずからの創作活動について、生い立ちを織り交ぜながら語ってくれた。そうした内容も、子どもが本にふれる機会がごくわずかしかないベナンのような国で、児童書創作者がどのように誕生するかを知るうえで重要である。彼らに共通する特徴のひとつは、幼いころから物語の本や漫画に夢中になった体験を持つことであった。彼らは身内や友人、偶然近所にあった図書館を通して読書の魅力を発見し、さまざまな手段によって本や漫画を入手していた。物語を楽しんだ体験は、あきらかに彼らの創作の原動力になっているのである。だが創作においては、伝承をとおして知った価値観、伝統的なものの見方、そしてベナン社会での人生体験が大きな役割を果たしていると考えられる。

[班研究会] 環境・生態班第8回研究会(2018年12月22日開催)

日時:2018年12月22日(土)12:00~17:00
場所:京都大学稲盛財団記念館3階318号室

今回の班研究会ではゲスト・スピーカーを2人招いた。1人目は京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科博士課程に在籍する大塚亮真氏で、「ウガンダ共和国ブウィンディ原生国立公園における住民参加型保全の現状と課題―マウンテンゴリラとの共生を目指す地元のボランティア活動に着目して」と題して、博士予備論文の内容を中心に最近の取り組みも交えて話してもらった。主にはサバンナで行なわれている大衆向けのサファリ(野生動物観光)と比べて、東アフリカのウガンダやルワンダなどで近年盛んになっているゴリラ・ツーリズムは観光客1人当たりの費用が高い。ウガンダにおいては、ゴリラ・ツーリズムは極めて重要な経済活動となっているという。しかしそのゴリラ・ツーリズムが、経済成長だけでなく環境保全(そして多くの場合は社会開発や文化保存も)を重視するエコツーリズムと捉えられている時、現場ではエコツーリズム(ゴリラ保全)として求められるルールが必ずしも守られていない事実が報告された。総合討論では、ゴリラ・ツーリズムの具体的な手続きや手順、問題となっているエコツーリズムのルールの科学的な妥当性、観光客だけでなく地元出身のガイドがエコツーリズムないしそのルールをどのように認識しているのかといった点が議論となった。

2人目のゲスト・スピーカーは中部学院大学教授の竹ノ下祐二氏で、「彼らや私は、ほんとうは何をしたいのだろう? 多様なステークホルダーに囲まれて」という題で、自身が関わってきたガボンにおける実践的プロジェクトの内容およびそれへの反省等が語られた。産油国でもある中央アフリカのガボンは、近年では国策として類人猿も含めた自然環境を基盤とした観光の開発を進めるようになっている。もともと類人猿の自然科学的な研究を行なってきた竹ノ下氏は、そうした中でガボンにおけるエコツーリズム開発を主題とする実践的な研究プロジェクトに関わりもした。ウガンダやルワンダなどの東アフリカ諸国と比較すると、ガボンなど中央アフリカにおいてゴリラ・ツーリズムを開発することには、景観の見晴らしの問題やゴリラの人馴れの問題、観光地に至るインフラ整備の問題など種々の困難が伴う。また地域社会の紐帯やゴリラの文化的な意味の希薄さから、ゴリラを中核に据えて住民参加型のプロジェクトを推し進めていくことも容易ではない。さらに、観光(エコツーリズム)という商業行為の対象としてゴリラを用いることに起因する心理的な葛藤もある。発表の中では竹ノ下氏の個人的な情感が何度となく吐露された。それを受けて総合討論の場では、ゴリラ・ツーリズムの可能性や東(マウンテンゴリラ)と中央(ニシローランドゴリラ)の地域差、研究者コミュニティ間のアプローチや考え方の違いなどとともに、竹ノ下氏の主観的嗜好のあり方も議論の対象となった。

これまでの班研究会では「アフリカ潜在力」に関する思考を整理することに時間を割いてきたが、今回は一転して「アフリカ潜在力」という言葉にはこだわらない研究発表を題材に議論を行なった。その結果、議論の過程で環境・生態に関する「アフリカ潜在力」を考える上で重要と思われる論点――保全/開発をめぐる受益と受苦の問題、制度設計の順応性の重要性など――がコメンテーターの岩井から提起され、竹ノ下氏からもその重要性を指摘する意見が出された。これらの点は過去の班研究会の中で言及されてもいたものであり、今後さらに議論を精緻化すべき論点が今回の班研究会を通じて明らかになったといえる。

目黒紀夫

[班研究会] 環境・生態班第7回研究会(2018年11月3日開催)

日時:2018年11月3日(日)12:30〜13:30
場所:京都大学稲盛財団記念館3階301号室

今回の班研究会における中心的な議題は、翌月に予定している次回研究会と1月末に開催される国際シンポジウムの詳細を詰めることであった。次回研究会では、『アフリカ潜在力シリーズ第5巻』の書評を『アフリカ研究』に寄稿した竹ノ下祐二氏(中部学院大学)をゲスト・スピーカーとして招き、同書の内容について議論をする予定である。自然科学的な調査研究を行なうだけでなく、地域社会を対象とした開発援助プロジェクトも実施してきた竹ノ下氏は、書評の中で寄稿者たちに「住民参加」についてさらなる議論を呼びかけている。その要点を確認するとともに、ゲスト・スピーカーの要望も踏まえ、これまでの班研究会の議論の経緯を説明する役と、ゲスト・スピーカーの発表に対して最初にコメントをするコメンテーターを置くことを決めた。そして可能であれば、竹ノ下氏と同様に「住民参加型」の類人猿の保護活動に関して調査研究をしている大塚亮真氏(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科博士課程)に発表を打診することが合意された。
また1月末に京都で開催される国際シンポジウムに関して、招聘が決まっているケープタウン大学のフランク・マトセ氏の業績について情報をシェアするとともに、国際シンポジウムにおいて環境・生態班としてどのような議論を構想するかについて意見を交わした。国際シンポジウムでは、南部アフリカの資源管理を主には政策的な観点から議論してきたマトセ氏とともに、東アフリカのケニアにおける野生動物保全を事例に、政策と地域の乖離を論じてきた目黒が発表をすることで、アフリカにおける環境保全政策の地域差について発展的な議論を展開することを目指すことが合意された。と同時に、せっかくの機会なので国際シンポジウムの前日に短時間の班研究会を開き、目黒以外の数人の班員が発表し、マトセ氏と意見交換をする機会を設けることも合意された。

目黒紀夫

[班研究会] 開発・生業班第8回研究会/国家・市民班第7回研究会(2018年11月3日開催)

日時:2018年11月3日(土)11:30-14:00
場所:京都大学稲盛財団記念館小会議室2

報告タイトル:「戦間期南アフリカ連邦をとりまくFed-Farmsの農産物流通ーー南アフリカの労働集約型工業化論に向けた一史的考察」
氏名:宗村敦子
所属:関西大学経済政治研究所

近年経済史で着目される労働集約型工業化論では、プロト工業化から近代工業の導入を一つの特殊な発展経路とする「経路依存性」について議論がある。アフリカ史との整理にはいくつかの課題があるが、本研究ではその一つ、戦間期にアフリカの地域産業を支えた国際市場があったのかという側面からこの問題に取り組んでいる。

そこで旧南アフリカ連邦で展開した果物缶詰産業を事例に、その輸出市場の特徴を説明した。同産業は1930年代を通じて多様な輸出先を持っていたが、イギリス帝国外との取引関係は一貫して大きくなっていった。つまり、保護貿易化の時代になぜそのような輸出構造になったのかという問題があった。ここでは南ア、オーストラリア、ニュージーランドの生産者組合が設立したFed-Farmsとの取引関係から、同産業の南半球の季節性を利用したビジネス構想の一端を論じた。

文責:宗村敦子

[班研究会] 開発・生業班第7回研究会(2018年10月1日開催)

日時:2018年10月1日(月)13:30-15:30
場所:京都大学稲盛財団記念館小会議室1

報告タイトル:The thought of the universal and the rarity of emancipatory dialectical thought: Some African examples
氏名:Michael Neocosmos
所属:Rhodes University, South Africa

発表者のマイケル・ネオコスモス氏は、本プロジェクトの海外協力者の一人であり、2017年11月24日~26日に南アフリカ共和国・グラハムスタウンで実施した第7回「アフリカ・フォーラム」では基調講演をおこなっている。また、2016年に出版した著作「Thinking Freedom in Africa: Toward a Theory of Emancipatory Politics」(Wits University Press)は、2017年の「フランツ・ファノン賞:著作部門(Frantz Fanon Outstanding Book Award)」を受賞している。

本報告で同氏は、上記の著作で展開した主張―人間を解放するための政治(emancipatory politics)はいかにして可能になるか―の一端を解説し議論した。同氏はまず、特定の文化における思想や行動が、文化や時代の枠を越えて広く共通に理解され共感されるという事態、すなわちある種の行為や思想は特定の文化には還元できない普遍性を有することを指摘する。そしてそのような思想とは、氏によれば「justice」や「truth」に関するものであり、「human equality」と普遍的な「humanity」に関するものである。ただしこの普遍性とは、国家という統治システムが誕生して以来、西欧を中心として主張されてきた「justice」や「truth」の普遍性とは本質的に異なっている。このような認識のもとに構想される政治哲学こそが人間の解放を可能にするのである。

[班研究会] 教育・社会班第7回研究会(2018年10月2日開催)

日時:2018年10月2日(火)16:00~18:00
場所:名古屋大学大学院国際開発研究科8階第一会議室

10月2日の班会議では、南アフリカ共和国人文科学研究評議会・理事長のCrain Soudien博士による講演会を行い、その後に意見交換会を行った。Soudien氏は、世界比較教育学会の会長をアフリカ人として初めて務めたこともあり、教育学、社会学的観点からの南アフリカやアフリカの状況に関する分析では、広く知られた人物である。

講演会は「Decolonisation debate in South Africa and its wider significance for education」と題し、2015年のRhodes must fall運動に始まる一連の脱植民地主義運動と、それに端を発する理論家の間での哲学論争の本質に迫るものであった。こうした運動の中心となっている大学において、知識の探求そのものの本質に潜む欧米中心主義を離れて、どのように学問や知識の中心性を再定義するかが議論の的となっている。Soudien氏は、脱植民地主義論争が本質的に欧米中心の認識論からのパラダイム転換を伴うものであるのか、複数の立場からの見解はまだ帰結を見ていないという。

講演会には、班メンバー及びそれ以外のアフリカ研究者、学生なども多く参加し、活発な議論が行われた。特に、哲学的な議論が、ブラック・コンシャスネスを強調するあまり、別の形での差別化につながるのではないか、本質的な意味でのユニバーサリズムに到達する思想はありえるのかといった意見や、こうした議論が現実の制度や施策に反映される可能性があるのか、またそれはどのような形を取りうるのか、といった質問が出た。