[全体会議 / 公開講演会] 第7回全体会議/第3回公開講演会「食品がつなぐアフリカ農村と日本:フェアトレードで産地は変わるか」(2018年1月27日開催)

日時:2018年1月27日(土)14:30~17:30
場所:京都大学稲盛財団記念館大会議室
(以下敬称略)

プログラム *司会(高橋基樹:京都大学・教授)

  • 趣旨説明(松田素二:京都大学・教授・「アフリカ潜在力」プロジェクト代表)
  • 講演1「チョコレートのフェアトレードと産地への影響」(近藤光:NPO法人ACEガーナプロジェクトマネージャー)
  • 講演2「コーヒーのフェアトレードと産地の社会制度:促進する制度/阻害する制度」(辻村英之:京都大学・教授)
  • コメンテーター1 (鈴木紀:国立民族学博物館・准教授)
  • コメンテーター2 (池上甲一:近畿大学・教授)

今回の全体会議は、一般市民の方にも開かれた公開講演会として開催された。会議参加者は117名にも上り、大変盛況であった。

まず、本プロジェクト代表の松田が、趣旨説明が行った。フェアトレードとは、生産者と消費者が不公正なつながり方を公正にし、産地の暮らしを改善する目的で行われており、近年では日本でもよく知られるようになった。では実際に、フェアトレードにより、産地にはどのような影響をうけているのだろうか。

最初の講演者である近藤は、「チョコレートのフェアトレードと産地への影響」と題し、自身が所属しているNPO法人ACEがこれまで長年取り組んできたガーナでのカカオ生産プロジェクトの経緯と、フェアトレード商品に関する取り組みについて論じた。また、森永製菓トとコラボレーションした「1 Chocolate for 1 smile」や、ACEが独自で行っている「1 more L・O・V・E」キャンペーンが、カカオ農園地域をどのように変えてきたのかが紹介された。ACEは、カカオ生産を援助するだけでなく、児童労働をなくすことや教育環境を整備することを目標にし、それらを実現させてきたという。今後の課題は、プロジェクト後の農村が、いかにそれらの活動を継続できるかであるが、住民自ら、児童労働の監視のしくみや相互扶助の組織などを提案・実施するようになっている例が紹介された。また、日本の消費者からの手紙が現地生産者のモチベーションを向上させた事例から、産地と消費者とのつながりの重要性が述べられた。そして、大手チョコレート会社のフェアトレードの取り組みが、日本の消費者とフェアトレードを近づけていることが論じられた。

続いて京都大学の辻村は、コーヒーの国際的な動きやフェアトレードが、長年調査を行ってきたタンザニアのキリマンジャロ山麓のコーヒー産地に与えた影響について論じた。この地域は、「キハンバ」という環境保全的な農林畜複合経営が有名で、その農法は2011年に「世界農業遺産」に認定されている。環境面に優れているのみならず、バナナや牛乳などの「女性産物」が、「男性産物」であるコーヒー生産を支えるなど、農民の「家計安全保障」がはたらいていた。しかし、コーヒーの生産者価格と日本の消費者価格は、実に800倍以上の差が存在するなど、生産者にとっては依然、不公正な状況がある。90年代以降の国際価格の低迷や「コーヒー危機」を経て、産地では、コーヒーからトウモロコシに転作する人、街へ出稼ぎに行く人、子どもを学校にやれない人などが増加した。よって、フェアトレードを介して生産者価格を引き上げる重要性は増しており、「フェアトレード・プレミアム」などの社会開発プロジェクトも開始されている。一方で、大手外食チェーンとの価格競争など、フェアトレードの力には限界があることも確かである。

二人の講演のあと、最初のコメンテーター鈴木は、児童労働をやめさせ学校に行けばすべて問題は解決するのか、学校制度が抱える諸問題はどう考えるかという疑問などを呈した。近藤は、やめさせるべき児童労働は、子どもの健全な成長を妨げる重労働や、搾取的な労働であると回答した。また辻村は、当該地域の人びと自身が、タンザニアのなかでもっとも教育を重視している民族で、彼ら自身が、子どもを学校に通わせることにプライオリティをおいているという事実を強調した。

2人目のコメンテーター池上は、辻村の発表に対し、この農村の仕組み・取り組みをモデル化して周辺地域へと広げる可能性について、また、産地から消費地までのブラックボックスの中身(値段の付け方など)について質問を行った。辻村は一つ目の質問について、この事例がモデルになるとは考えていないが、ある程度の一般性を持ちうると述べた。二つ目の質問に関しては、コーヒーの価格決めは先物市場取引など、世界的に構造化、システム化されているため、ここを改変するのは容易ではなく、そこを避けてフェアトレードは展開されている現状を語った。

最後にフロアからの質問に二人の講演者が答え、本講演会は終了した。

平野(野元)美佐

[班研究会 / 公開講演会] 開発・生業班第4回研究会/第2回公開講演会(2018年1月12日開催)

日時:2018年1月12日(金)15:00-17:00
場所:京都大学稲盛財団記念館大会議室
(以下、敬称略)

報告タイトル:「足元」からの平和構築―ジェノサイド後のルワンダにおける障害者支援―
氏名:ガテラ・ルダシングワ・エマニュエル、ルダシングワ(吉田)真美
所属:ムリンディ/ジャパン ワンラブ プロジェクト

司会:大庭弘継(京都大学)
コメンテーター:近藤有希子(日本学術振興会/同志社大学)

ルダシングワ夫妻は、ルワンダにおける1994年の虐殺後、1996年にムリンディ/ジャパン ワンラブ プロジェクト(Mulindi/ Japan One Love Project)というNGOを立ち上げ、以来21年間、足の不自由な障害者のための義肢製作を続けている。本報告では、ルワンダという国の概要とともに、当団体の活動である義足の無償製作と配布、また義足を履いて立ち上がろうとする者への職業訓練などの取り組みのなかで経験された苦労や想いについてお話いただいた。1994年の虐殺を経て「ゼロ」となったルワンダにおいて、人材も機材も施設もすべてを一から創りあげてこられたその過程について、写真を多用して生き生きと説明された。さらに、近年では義足を支援した者がパラリンピックを目指す姿についても紹介があった。
なお、ガテラさんの声を通してスワヒリ語で説明されたこと(ルワンダの歴史や活動内容の一部)は、真美さんを介して、その内容が会場へと届けられた。

コメンテーターからは、現在のルワンダの障害者を取り巻く困難な社会的状況が概説された。そして、しかしそのような社会のなかで、義足というモノによって喚起される人びとの想像力(憧れや可能性)、またそこで生じている社会関係についての質問がなされた。さらに、1994年の虐殺というすべてが「ゼロ」になった経験、つまり誤解を恐れずに言えば、ある意味ではさまざまな可能性が開かれたであろう瞬間を知るご夫妻だからこそ、今後の活動のなかにも未来を描き続けることができるのではないかという期待が込められた。

質疑応答では、ルワンダの都市‐農村間の生活の相違やその実態、および各地域における活動の難しさに関する質問がなされた。またコメントを受けて、軍人ではない一般の障害者に対する国家としての取り組みが乏しいなかで、彼らが今後いかに生きていくことが可能かということを、ガテラさんにスワヒリ語で直接問いかける場面も見られた。さらに、この活動はあくまでもお二人の個人的なつながりのなかで生まれたものであるが、そのような個別具体的でかけがえのない関係性の地平から、これからの活動のなかで目指してゆくものについての意見交換もおこなわれた。

(近藤有希子)