[海外出張報告] 平野(野元)美佐(対立・共生班)フランス、カメルーン 海外出張期間:2017年2月19日〜3月5日

「亡き首長との邂逅とヤウンデの商人たちとの再会」
平野(野元)美佐

(派遣先国:フランス、カメルーン/海外出張期間:2017年2月19日~3月5日)

今回の渡航では、まず、南仏エクサンプロバンスに滞在し、「国立海外文書館(ANOM)」で、カメルーンの紛争に関する資料収集をおこなった。長年行きたいと願っていたが、今回が初訪問となった。ANOMには、アフリカをはじめとする旧フランス植民地の行政文書、新聞、写真、地図などが保管されている。カメルーン独立前、バミレケやバッサなどの民族が中心となって結成した政党UPC(カメルーン人民同盟)の動向や、独立運動が禁じられたUPCがやむなく始めた「ゲリラ戦」に関して、多くの資料や新聞記事が見つかった。1950年代後半、西部州西側のバミレケ・ランドはゲリラ戦の舞台となり、大きな被害が出た。バミレケ・ランドは、100以上の首長制社会が存在する地域だが、首長やその宮廷はゲリラの襲撃対象となっていた。首長たちは、フランス植民地政府とUPCとの間で板挟みになり、UPCに共感すればフランス政府から迫害され、フランス政府の側にたてばゲリラに襲われたのであり、その難しい立場を再認識した。

ANOMで乾いた文書をめくり続けていると、植民地当時の様子が心にせまってきた。ドイツからカメルーンを奪ったばかりのフランス植民地政府は、ドイツ人をいかに追い出すかに頭を悩ませ、なにかあれば隣のイギリス領ナイジェリアに逃げ込むカメルーン人に手を焼いていた。導入された人頭税の各「部族」の割り当て人数表からは、当時のカメルーンの人々の困惑を感じた。フランス人行政官の出張報告書からは、アフリカその他、世界中のフランス植民地の行政官と「業績」を競い合う役人の姿が目に浮かんだ。嬉しかったのは、私が調査していたバングラップ首長制社会のK首長の若い頃の写真を、1955年の新聞記事で見つけたことである。その写真を見つける確率はなかなかのもので、「今後もバングラップと関わっていくように」と、2004年に80歳代で亡くなったK首長に励まされた気がした。

カメルーンでは、1997年~98年に聞き取りをさせてもらったインフォーマルセクター従事者たちを訪ねた。2006年にも再訪問をおこなったが、今回はさらにその10年後、つまり聞き取りから20年がたっての再訪問である。すでに亡くなっている人もいれば、消息が分からない人もいる。今回の渡航では、古本業2名、金物業、市場の食糧品屋、自動車修理工、鉄製機械職人、印章屋、靴修理屋、コピー屋、中古靴屋のみなさんと再会することができた。古本業のうちの一人は同じように露店で古本を売っていたが、もう一人は、新品の本や学用品を扱う常設店舗を構え、本屋を経営していた。1997年には露店の荷車で商売をしていた金物業者は、10年前は店を構えて事業を拡大していたが、現在金物業は前ほどうまくいっていないという。そのため地方に畑を購入し、食糧を生産・販売することをもくろんでいた。市場の食糧品店主は、20年前からその市場の女性リーダーをしており、彼女のビジネスは前よりも大きくなっていた。自動車修理工も、前より大きなガレージで仕事をしていたが、さらに大きなガレージにするために空港そばに広い土地を取得していた。鉄製機械職人はアトリエで、現在製作に取り組んでいる農機具をみせてくれた。現在はガボンなどに講師として出向くことがあり、機械製作を指導しているという。路上の印章屋は、市当局に指導されかつての露店のそばの常設店で仕事をしていたが、手作業ではなくコンピューターを導入して印章作成をするようになっていた。靴修理屋は、以前と同じく掘立小屋の店舗で靴修理を続けていた。路上のコピー屋をしていた女性は、コピー機の故障が多くその仕事を諦め、同じく露店で携帯電話のクレジットを売る仕事にかわっていた。中古靴をヤウンデ最大のモコロ市場で売っていた商人は、中央市場で女性服を売るようになっていた。

インフォーマルセクターというと、融通無碍で定着しないイメージがあるかもしれない。しかし紹介したように、再訪できた人たちは、同じ場所で(あるいは市当局に移動させられたなどやむを得ない事情から別の場所で)、同じような仕事を続けており、なかには事業を大きくしている者もいた。不安定な環境ながら、同じ場所(となじみの客)、同じ商売にこだわることで仕事を安定させ、一定の収益を得、自分や家族の生活を支えてきたのである。まだ再訪は途中であり、今後も20年後の調査を続けていきたいと考えている。

ヤウンデに暮らすことは、私が調査をはじめた1990年代よりも厳しくなっているようにみえる。そこにどのような潜在力が働き、人びとの暮らしを支えているのかを、このプロジェクトを通して明らかにしたいと考えている。

拡大を続けるヤウンデの町

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