[海外出張報告] 桐越 仁美(開発・生業班)ニジェール、ガーナ 海外出張期間:2017年3月6日~21日

「西アフリカのコーラナッツ交易を支える連携と信頼の商業ネットワーク」
桐越 仁美

(派遣先国:ニジェール、ガーナ/海外出張期間:2017年3月6日~21日)

西アフリカでは、輸入された海外製品が港で大型トレーラーに積み込まれ、次々に内陸部へと運ばれています。沿岸部から内陸部に輸送されていく海外製品のなかには日本や中国などから輸入された中古バイクや中古自転車、中古の家電製品なども多く含まれ、近年では内陸部におけるこれらの輸入品の需要が高まっています。海外製品の内陸部への輸送を支えているのが、西アフリカの歴史的商業ネットワークです。西アフリカでは、紀元前1000年から北アフリカとのあいだでトランス・サハラ交易が発展しました。トランス・サハラ交易やその後に発展した大西洋貿易は西アフリカ各地をむすびつけ、異なる生態ゾーンとのつながりを構築しました。

西アフリカの歴史的交易のなかでは、コーラナッツという商品が重要な交易品とされてきました。コーラナッツとはアオイ科コラノキ属コラノキ (Cola nitida) の種子です。コーラナッツはおもに西アフリカのサバンナ地帯やサヘル地帯といった内陸乾燥地域において、古くから嗜好品として消費されてきました。コーラナッツの特徴として、鮮度を維持したまま輸送される点、消費地は内陸乾燥地域であるのに対して生産地は南部の森林地帯に限定される点の2点があげられます。このような特徴から、鮮度を維持しつつも、ときには2,000km以上の道のりを輸送しなければならず、19世紀以前には輸送に多大な労力と財力を必要としました。交易を通じてコーラナッツの商品価値は高まり、内陸乾燥地域においては富と権力の象徴として儀礼的・社会的に高い価値が与えられました。コーラナッツは現在でも内陸乾燥地域で日常的に消費されており、森林地帯から内陸乾燥地域に向けて大量に輸送されています。私の研究は、現在のコーラナッツ交易がどのような商業ネットワークのもとに成立しているのかに着目しています。

今回の渡航では、コーラナッツの生産地であるガーナ南部と消費地であるニジェール南部の2ヵ所で調査を実施しました。ニジェールでは首都ニアメの市場グラン・マルシェと資材市場カタコの2エリアに位置するコーラナッツの配荷場を対象に調査をしました。消費地であるニジェールの情勢悪化によって、2013年以降、私の調査は生産地であるガーナに限られていたのですが、今回は初めて消費地を対象とした調査をおこないました。おもにコーラナッツの価格や配荷場のシステムについて調査を実施し、過去にガーナで調査したコーラナッツの輸送システムとの照合をおこないました。ガーナでは、輸送上の取引に関する調査とあわせて、コーラナッツ交易に関わりのある若者たちのこれまでのライフコースや今後の展望についての聞き取り調査も実施しました。調査対象の若者たちのほとんどは、ガーナ国内外の内陸乾燥地域からガーナ南部に移住した人びとであり、同じく内陸乾燥地域を出身とする商人のもとで修行を積んでいます。

これまでのガーナにおける調査からは、コーラナッツの消費地への輸送の行程において掛売りや委託販売といった手法が採用されており、商人間の連携や信頼が重要であることが明らかになっていました。今回は生産地であるガーナに限らず、消費地であるニジェールでも首都から地方への輸送の行程で掛売りが採用されていることが確認できました。また、ガーナにおける若者たちへの聞き取り調査からは、商人間の連携や信頼のうえに成りたつコーラナッツ交易に関わることへの誇りを垣間見ることができました。コーラナッツ交易は歴史ある商売であり、長い修行期間を必要としますが、多くの若者がコーラナッツ交易に関わることに喜びを感じており、修行を通じて次のステップを模索している状況にありました。また聞き取り調査のなかで、西アフリカの交易には大きく分けて2つのタイプがあり、コーラナッツや塩などの歴史的な交易と、海外製品などを扱う新しい交易に分けられることが明らかになりました。さらにこれら2つの交易のあいだでは異なる商慣行がみられます。しかし、この2つの交易が互いに影響しあわないわけではなく、若者たちはこの2つの交易を柔軟に行き来することで、みずからの人生の指針を得ようとしていました。今後は、これら2つの交易の違いについて調査・分析し、若者の人生設計や歴史的商業ネットワークの新しい交易への活用について考察していきたいと考えています。

ニアメのコーラナッツ配荷場の内部

ガーナのコーラナッツ商人たち

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