【2012年度派遣報告】大山修一「ザンビアの慣習地における土地取得とチーフの役割」

(派遣先国:ザンビア/派遣期間:2012年10月)
「ザンビアの慣習地における土地取得とチーフの役割」
大山 修一(京都大学アジア・アフリカ地域研究研究科・准教授)
キーワード:慣習地, 土地保有, 共同保有, ベンバ, 首長制度

研究の背景と目的

慣習地に開墾された都市住民のトウモロコシ畑

ザンビアの国土のうち94%の土地は慣習地であり、1995年の土地法の改正によって、外国人や企業、ザンビア人に対して慣習地の土地取得を開放したことによって、慣習地における土地の私有化がすすんでいる。ザンビア北部の慣習地における土地の私有化では、どのような手続きがとられているのか、とくに首長(チーフ)の役割に着目して明らかにする。また、慣習地の土地を強権的に外部者に対して分割したチーフが、その後、不自然な死を遂げたことに対して、人びとがどのように考えているのか、土地法の改正をめぐる地域社会の動きを検討していく。

今回の調査から得られた知見

2003年以降、土地所有権を取得しようとする希望者は地域のローカル・チーフと面会し、その承諾を得て、ザンビア政府の発行する土地保有証明書、あるいはチーフの発行する土地割当書を取得していることが明らかとなった。土地の取得を希望する申請者は、チーフの同意を得ることが不可欠であり、両者のあいだでは手続きに必要な経費の支払いだけではなく、必ずといってよいほど、物品や金銭の授受がおこなわれている。

ザンビア社会では、特権をもつ人間との民族や縁故を通じた人間のつながりによって汚職が横行する素地がある。土地保有証明書や土地割当書の取得に関する許認可には、申請者はチーフや村長、関係機関の役人の許認可を得る必要があり、申請者とチーフ、村長などの伝統権威とのあいだには便宜供与を目的とした賄賂の授受がおこなわれている。衆目につかない土地保有の許認可に関する黒い噂は、村落社会でひろく流布されている。ザンビア北部のローカル・チーフAの領域においては、多くの人びとが内情を知っている訳ではないが、過去2人のチーフ(故人)が外部者に土地を譲渡し、私服を肥やしていたとされていることが分かっている。

慣習地における土地の譲渡および村びとからの土地の収奪によって、利用できる土地が制限され、村びとの生活は確実に変化し、生活の質が劣化している。人びとは土地の譲渡に対して怒りを覚え、生活の劣化に不満をもっているにもかかわらず、耐えているのが現状である。そのようななか、ふたりのチーフが2007年と2009年に相次いで、不自然な死に方をする。この不自然な死について、領域に住む人びとは明言を避けるものの、臣民の怒りと不満がチーフに死をもたらしたのだと考える人もいる。領域の臣民が安穏と過ごすことができるように生活を庇護すべきチーフが、みずからの権力を乱用し、村びとが放し飼いにしている家畜を勝手に捕まえ、売却したり、あるいは領域の土地を外部の個人や企業に売り渡すという私服を肥やす行為は、人びとの良識に反する行為であり、2人のチーフの不自然な死は臣民の生活を犠牲にし、私服を肥やす強欲さに由来するものだと考えられている。

今後の展開

土地の私有化の動きは、外部者だけではなく、その地域に居住する人びとーとくに若年層のあいだでもみられるようになっている。農村における人口密度の上昇、世帯数の増加にともなって進行する土地の私有化が、これまでの焼畑耕作を基本とした土地のゆるやかな利用・共同保有のあり方にどのようなインパクトを与えていくのか、人びとの生業のあり方、富裕者による富の集積に対する農村社会のミクロな動きに着目して、今後、調査をすすめていきたいと考えている。

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