【2014年度派遣報告】阿部利洋「移行期正義研究の理論的動向:アフリカの事例をどのように位置づけるか」

(派遣先国:イギリス/派遣期間:2014年8月、2015年2月)
「移行期正義研究の理論的動向:アフリカの事例をどのように位置づけるか」
阿部利洋(大谷大学)
キーワード:移行期正義, 真実和解委員会, 被害者参加, 社会運動

研究の背景と目的

移行期正義分野の今日的動向を理解するには、アフリカで実施されてきた各事例の実証的把握を欠くことはできない。南アフリカ、シエラレオネ、リベリア、ガーナで活動した真実委員会、ルワンダのガチャチャ、リベリア、シエラレオネに設置された国際法廷等、アフリカにおける移行期正義の事例は、紛争と共生という課題を検討するための厖大なデータを提供している。こうしたデータに基づき、地域横断的な理論的研究を展開しているのが、ロンドン大とオックスフォード大を拠点とする関連研究グループである。今年度の調査滞在では、従来の移行期正義に対する批判を克服するアプローチを追求する研究者との直接の意見交換を踏まえ、比較分析の観点からアフリカの事例の特殊性を位置付けるための資料収集を行うことを目的とした。

得られた知見と今後の課題

国際司法と真実委員会では、制度的な仕組みも公式課題も異なるが、当該社会への長期的影響という観点からみれば、いずれも紛争後ないしは体制転換後の民主化促進という目標を共有しており、移行期正義プロジェクトとして同等に扱いうる部分を有している。また、社会構成員の受容という点では、いずれの取り組みに対しても、類似する批判が向けられる傾向があることも明らかになっている。そこでは、たとえば被害者に対する多様なエンパワーメントのみならず被害者カテゴリーをめぐる立場の異なる被害者同士のポリティクスや、プロジェクトに対するローカル参加者の動員如何を超えて参加者が構築している独自の意味ネットワークの把握など、成功/失敗を軸とする評価基準の外部で展開されるべき分析アプローチが要請されるようになっている。この視点を採用するならば、公式課題に照らし合わせて十分に動員されたルワンダのガチャチャには上記の意味ネットワークが生成する余地は少なく、また、南アフリカのクルマニ・サポート・グループのように真実委員会の外部で派生的な活動を繰り広げたケースは、公式の意図からは外れているにもかかわらず、社会的効果の一つとして把握しうるという議論が可能になる。

今後の課題としては、アフリカ各地のケースをより詳細に比較検討するためのデータの整備とともに、そうした効果が生じる/生じない分岐点がどのような条件とともに生起するのか、適合する社会科学的なフレームワークを吟味する作業があげられる。

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