【2015年度派遣報告】市野進一郎「マダガスカル南部の小規模保護区の治安と管理状況に関する調査」

(派遣国:マダガスカル/派遣期間:2015年4月~5月)
「マダガスカル南部の小規模保護区の治安と管理状況に関する調査」
市野進一郎(京都大学アフリカ地域研究資料センター)
キーワード:マダガスカル, 小規模保護区, 治安, マラス, 違法伐採

研究の背景と目的

アフリカでは、政治的・経済的混乱がしばしば自然保護地域における違法伐採や違法狩猟の増加を引き起こすことが知られている。マダガスカルでは、2009年に政治危機が起き、大統領辞任やその後の暫定政府の外交的孤立など政治的・経済的混乱が続いた。この時期、熱帯降雨林地帯では違法伐採や違法狩猟が増加したという報告がある。

マダガスカル南部は年間降水量500mm程度の半乾燥地域で、森林の大部分が分断化し、小規模な森林しか残されていない。このような地域では、小規模な森林をできるかぎり多数、保全することが現実的な生物多様性の保全戦略であり、政治的・経済的混乱が小規模な森林を保全するうえでのリスク要因となるかどうか検討する必要がある。

本調査では、マダガスカル南部の小規模保護区を対象に2009年以降の治安状況の実態と保護区管理状況を明らかにすることを目的とした。特に厳密な管理と迅速な対応が可能な小規模保護区の特性との関連に着目して、調査をおこなった。

得られた知見

マダガスカル南部のベレンティ保護区における聞き取り調査によって、2009年以降の周辺地域の治安状況について以下のようなことが明らかになった。

保護区周辺では、2009年以降治安の悪化が指摘されるようになり、保護区従業員が強盗など被害にあうこともあった。この時期は、マダガスカル南部でマラス(malaso)と呼ばれる武装強盗団が活動を活発化させるようになった時期に相当し、2010年には保護区対岸のアンダババザ村もマラスの襲撃を受けた。マラスは銃などで武装した若者の集団で、夜間に村を襲撃し、主にウシの強奪をおこなう。2013年には保護区内の博物館施設が襲撃されるなど、被害は保護区内にも広がった。

これらの被害を受けて、2013年9月には軍や憲兵隊によるマラス対策チームが到着したが、うまく機能しなかったと言われている。その後、2014年4月頃にファネーヴァ司令官(Kapiteny Faneva)がこの地方に着任し、カルーニと呼ばれる自警団を組織した。カルーニの特徴は、もともとマラスであった若者を集め、銃などを提出させるかわりに恩赦を与え、彼らを組織化したという点である。その一方で、新たなマラスに対しては厳しい態度で臨み、調査中(2015年4月)にも保護区の近くでマラスが射殺された。保護区関係者はこうした対応に概ね賛同しており、治安の安定を歓迎する発言が目立った。

この時期の保護区の管理状況については以下のようなことが明らかになった。
(1)違法伐採
2012年に保護区ガイドの一人が地元住民と結託し、保護区内の樹木を違法に伐採し、近隣の村に売買していたことが発覚し、ただちに解雇となった。

(2)違法狩猟
個体識別にもとづく継続調査が行われているワオキツネザルについては、狩猟の可能性を示す兆候はなかった。しかし、キツネザル類などの狩猟に関する様々なうわさ話が保護区関係者からあがった。この時点(2014年)で保護区管理者は、研究者と連携して、保護区内のワオキツネザルおよびベローシファカの全頭調査を開始した。こうした活動は保護区内の個体数管理の基礎資料となるだけではなく、結果的に研究者、研究協力者、保護区従業員が保護区内を見まわる形となり、狩猟に対する一定の抑止効果を生む結果となったようだ。

以上のように、ベレンティ保護区では違法伐採や狩猟が疑われる事例が確認されたが、直ちに対策が立てられたことが分かった。小規模保護区の利点のひとつは監視の目が行き届きやすいという点で、研究者や保護区従業員が不正行為に気づきやすい可能性がある。また、この地域の治安を脅かす武装強盗団に対する対策は、カルーニと呼ばれる自警団がうまく機能しており、保護区関係者から評価されていた。カルーニがうまく機能しているのは、もともとマラスであった若者は襲撃者を個人的に知っている場合も多いことに加え、マラスの行動パターンもよく把握しているためだと考えられる。

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