[第2回アフリカの紛争と共生 国際フォーラム(ハラレ)](2012年12月07-09日開催)

日 時:2012年12月7〜9日
場 所:ハラレ Bronte, The Garden Hotel

概要

本プロジェクトでは「アフリカ紛争・共生フォーラム」を毎年1回、アフリカで開き、アフリカ諸国の研究者や実務者とともに国際的な議論を深めてゆきます。初年度の2011年12月には第1回の集まりをナイロビで、2012年12月には第2回をハラレで開催しました。

ハラレ・フォーラムでは、南部アフリカを対象として研究を続けてきたアフリカ人8人(基調講演をふくむ)と日本人7人の口頭発表がありました。また、前回のナイロビ・フォーラムが対象としたのは東アフリカ地域ですが、そのフォーラムに出席したアフリカ人3人、日本人4人もハラレ・フォーラムに参加しました。そして、紛争解決と共生の実現のために活用できる「アフリカの潜在力」とは何かについて、多様な視点から活発な意見交換がおこなわれました。

ハラレ・フォーラムでは、前回のナイロビ・フォーラムの成果をふまえて、参加する人びとには、まえもって以下の五つの質問を送りました。そして参加者には、自分の調査地での経験をもとにしながら、この質問に答えるかたちで2000~3000語のメモを用意してもらいました。そして、それをもとにして焦点の定まった議論をすることを試みました。

  1. 紛争の解決や社会的な和解と癒しのために有効に利用することができる「アフリカの潜在力」とは何か。「アフリカの潜在力」とはあいまいで多面的、かつ問題のある概念でありうるし、保守的、リベラル、あるいはラディカルなイデオロギーを内包しうる。また、この概念を南部アフリカのコンテクストで使うと、「誰がアフリカ人なのか」という、より基礎的な問題も提起するかもしれない。
  2. 「アフリカの潜在力」は、紛争解決の過程において、どのように機能しうるか。
  3. 紛争解決と正義の実現のためには、グローバルで普遍的なシステムが利用されることが一般的であるが、「アフリカの潜在力」は、そうしたシステムとどのように接合できるのか。
  4. 「アフリカの潜在力」には「有害な伝統的な慣行」がふくまれることもある。「アフリカの潜在力」を再評価して活用しようと考えるときに、どのようにして普遍的な正義という基準を満たし、人権を保護しうるのか。
  5. 南部アフリカの紛争パターンに、アフリカのほかの地域とは異なった独自のものがあるとしたら、それはどのようなものか。
  1. What are African Potentials that can be utilized for conflict resolution, reconciliation and social healing? (the concept of African Potentials could be ambiguous, multifaceted and problematic including conservative/liberal/radical ideologies. It might raise a more fundamental question about who Africans are in Southern African context.)
  2. How can they work in a conflict resolution process?
  3. How can African Potentials be articulated with global/universal system of justice and conflict resolution?
  4. African Potentials may include “harmful” ones. How can pro-African Potentials orientations satisfy both of local and universal justice and protect human rights at once in addressing such “harmful traditional practices”?
  5. What are unique conflict patterns, if any, in a Southern African context that are different from those in other African regions?

ハラレ・フォーラムのプログラムは、下記のとおりです。まず、研究代表者の太田至が趣旨説明をおこなったあと、アジスアベバ大学のインティソ・ゲブレさんから、前回のナイロビ・フォーラムやこの研究プロジェクト全体に関する批判的なコメントをいただきました。そのあと、CODESRIA(Council for the Development of Social Science Research in Africa: アフリカ社会科学調査振興評議会)の元会長で世界の農地改革に関する先鋭的な研究者であるサム・モヨさんの基調講演がありました。この講演でモヨさんは、アフリカ大陸における農地問題の現代史を概観して、その多様性といくつかの共通点を指摘し、また、南部アフリカにおける紛争の特徴を論じて、フォーラム全体の議論の方向を設定しました。

そのあと、5つのセッションにわかれて合計14件の口頭発表がありました。そこで取り上げられた事例は、農地改革(land reform)、土着の権利(autochthony)、主権の分有(power sharing)、地域内協力(regional cooperation)、人びとの和解と社会的な癒し(reconciliation and social healing)、日常的な紛争解決の方法(everyday conflict settlement)、精神世界の役割(spirituality)など、多岐にわたりました。そして参加者たちは、紛争の解決と共生の実現にむけて「アフリカの潜在力」をどのように活用できるのか、そして、南部アフリカに特徴的な現象とは何かについて、活発な議論をかわすことができました。

以下に掲載するのは、こうした口頭発表と議論から導き出された論点をまとめたものです。フォーラムの最後の総合討論では、この論点を参照しながら議論をかわしました。また、フォーラムの参加者たちは、成果の出版にむけて口頭発表の原稿を改訂することにしました。

議論された主要な課題(英文はここをクリック)

1.南部アフリカには、この地域独自の紛争のパターンがあるのか、また、あつかうべき独自の問題があるのか

  • ヨーロッパ人入植者の問題、植民地主義、人種差別主義、資本主義の浸透(ネオ・リベラルなグローバル化の背景)
  • 先住民からの土地の強奪といった暴力行使な歴史が重要な位置にあること
  • 土着の人びとの権利(autochthony)、人びとの移住と多層をなす歴史、マイノリティの不安定な立場
  • ネオ・リベラルな改革に対して、現地の権利を擁護する政治的・経済的ナショナリズムがおこっていること
  • 「グッド・ガバナンス」および「伝統的価値」に対する二極化した見解、ハイブリッドな制度とは何か
  • 外部のコンテキスト:安全保障と資源の争奪

2.紛争解決と共生を実現するために機能している「アフリカの潜在力」とは、どのようなものか

  • 交渉のすえに合意すること:それに関与する者は、特定のアイデンティティを共有するような実体のある集団なのか
  • 祖先に対する尊敬と歴史の所有者の問題:誰のための、誰にとっての歴史なのか
  • 人間と自然に対する関係論的な見方:その開放性
  • 地域に根ざした考え方、地域内部からの視点:文化的なアプローチとポリティカル・エコノミーのアプローチ
  • 常に構築され、インベントされ続けること:それは実体をともなうのか、イメージのうえのことに過ぎないのか

3.紛争解決と共生を実現するにあたって「アフリカの潜在力」は、どのような局面で活用できるのか

  • プロセスが重要であり、歴史との関連を見る必要がある。また、多層な焦点を考える必要がある(村、地方、国家、大陸、地球全体といった異なるレベル)
    • 土地改革
    • 生態及び資源管理
    • (国民的)アイデンティティの表出、過去におこなわれた不正への対処
    • 権力の分有、リージョナルな仲裁、紛争後の和解
    • そのほかの議論すべき諸関係:階級間の関係、ジェンダー、家父長制など
  • いつ、そしてどのような方法によって、「アフリカ潜在力」がうまく活用されたと判断するのか、そもそも、そのような測定ができるのか

4.慣習的でローカルな実践と公式なメカニズム(国家、リージョナルな組織など)をどのように接合することができるのか

  • チーフの役割:それは制度化されるべきか。どの程度まで、どんな方法で?
  • ふつうの人びとのエージェンシーについてどう考えるか:彼らの声は、どのようにして他者にとどくのか
  • 国家による干渉:「捕捉されない」農民というとらえかた
  • SADCは共同体として機能するのか:地域紛争、地域の治安体制、保護体制
  • (普遍的)権利と(ローカルな)伝統の関係:両者の有害さ、両者の有用性、そして両者を複合したときの有害さと有用性

5.「アフリカの潜在力」と「アジアの潜在力」の共通点はどこか

プログラム

December 7 (Fri.)
19:00 – 20:00 Registration
20:00 – 22:00 Reception (Restaurant Emannuels)
December 8 (Sat.)
9:15 – 9:30 Itaru Ohta (Kyoto University)
Introduction: Purpose of the Harare Forum
9:30 – 9:45 Gebre Yntiso (Addis Ababa University)
Comments on the Nairobi Forum held in 2011
9:45 – 10:15 Keynote Speech:Sam Moyo (African Institute for Agrarian Studies)
African Potentials: Southern Africa’s Conflict Regime
10:15 – 10:35 Break
 

◎Session 1: Dynamics of Conflict Resolution in Zimbabwe

(1) 10:35 – 11:05 Donald Chimanikire (University of Zimbabwe)
Zimbabwe’s discourse of national reconciliation and conflict resolution: The cases of Reconciliation, The Unity Accord, The Global Political Agreement (GPA) and National Healing
(2) 11:05 – 11:35 Grasian H. Mkodzongi (University of Edinburgh)
Land reform, land conflicts and the dynamics of authority after land reform in Zimbabwe 2000–2011
(3) 11:35 – 12:05 Kazuhito Suga (I-i-net, Japan)
Effect of African potentials on conflicts after Fast Track Land Reform in Zimbabwe –
12:05 – 12:15 Comments on the Session 1
Gebre Yntiso (Addis Ababa University)
12:15 – 14:00 Lunch
 

◎Session 2: Power-Sharing, Mediation and Reconciliation in Southern Africa

(4) 14:00 – 14:30 Yoich Mine (Doshisha University)
Sharing and dispersing power in the African perspectives: A research note on African Potentials
(5) 14:30 – 15:00 Yoko Nagahara (Tokyo University of Foreign Studies)
History as an African Potential: ¬Conflict and Reconciliation in Relation to Namibia’s Colonial Past
(6) 15:00 – 15:30 Mitsugi Endo (University of Tokyo)
African Potentials in the context of Southern Africa
15:30 – 15:40 Comments on the Session 2
Edward Kirumira (Makerere University)
15:40 – 16:00 Break
 

◎Session 3: Peopling and Conflict Resolution in South Africa

(7) 16:00 – 16:30 Rumi Umino (Tokyo Metropolitan University)
Living with conflicts: Being “indigenous” in South Africa, and beyond
(8) 16:30 – 17:00 Lungisile Ntsebeza (University of Cape Town)
Resolving conflict and ensuring peaceful co-existence in South Africa: Any role for land?
(9) 17:00 – 17:30 Toshihiro Abe (Otani University)
Lawyer Mandela’s court tactics and the potential function of the South African TRC
17:30 – 17:40 Comments on the Session 3
Eisei Kurimoto (Osaka University)
December 9 (Sun.)

◎Session 4: Land and Conflict in Zambia

(10) 9:15 – 9:45 Richard Zulu & Chileshe L. Mulenga (University of Zambia)
Conflict resolution: Lessons from Zamba
(11) 9:45 – 10:15 Shuichi Oyama (Kyoto University)
The People’s anger killed a chief and his spirit protects the territory: Inequality and local resolution of land allocation under the new 1995 Land Act in Zambia
10:15 – 10:25 Comments on the Session 4
Kennedy Mkutu (United States International University)
10:25 – 10:45 Break
 

◎Session 5: African Potentials in Perspectives

(12) 10:45 – 11: 15 Wilbert Sadomba (University of Zimbabwe)
Potential of African philosophy in conflict resolution and peace-building
(13) 11:15 – 11:45 Euclides Gonçalves (Centro de Estudos Sociais Aquino de Bragança)
The politics of persuasion: The influentes and the conflict resolution in Mozambique
(14) 11:45 – 12:15 Michael Neocosmos (University of South Africa)
Thinking the Resolution-of-Contradictions-Among-the-People in Africa and the politics of social healing (some theoretical notes)
12:15 – 12:25 Comments on the Session 5
Motoji Matsuda (Kyoto University)
12:25 – 14:00 Lunch
 
14:00 – 16:00 General Discussion (Chair: Yoich Mine)
 
カテゴリー: 国際シンポジウム, 研究活動 パーマリンク