[経済・開発ユニット第8回研究会]「成果出版に向けた構想発表第1回」(2014年07月12日開催)

日 時:2014年7月12日

今回は、成果出版に向けて構想発表が行われた。まず、編者である高橋基樹氏(神戸大学)から、書籍出版についての説明が行われたのち、荒木美奈子氏(お茶の水女子大学)、近藤史氏(京都大学)、福西隆弘氏(アジア経済研究所)、神代ちひろ氏(京都大学)の4名から構想の発表が行われた。

荒木美奈子氏は「水資源をめぐる『開発実践』における争い・交渉・解決のプロセス」というタイトルで、開発実践のなかで生じる紛争について、自らがかかわったタンザニア、ムビンガ県の山間部のハイドロミル・プロジェクトをめぐる紛争とその解決方法について報告した。発表ではハイドロミルの近くに居住する人々と遠くに居住する人々の間での争い、プロジェクトを支援してきた県と教会によるオーナーシップをめぐる紛争などが事例として取り上げられ、紛争の火種は何だったのか、どのように解決されたのか、誰が調停者になり調停者はどのような役割を担ったのかについて丁寧に説明された。質疑応答では、外部者の影響がどれくらい紛争とその解決に影響を与えているのかという質問や、対立の構造をより明確にする必要があるという指摘がなされた。

近藤史氏は、「植林の産業化にともなう土地とカネをめぐる格差と共生の模索」というタイトルで、植林した樹木が大きな現金収入源となった結果、生じた貧富の格差や不満はどのように解決されているのか、タンザニア南部ンジョンベ州の事例を報告した。質疑応答では、貧富の格差が生じても必ずしも衝突が起こるわけではなく、格差が広がったとしても貧困層の生活が底上げされ、彼らが満足している状態であれば衝突は生じない可能性が高いということが指摘された。また、衝突回避の試みとして紹介された公共事業は、衝突回避が目的とされていない可能性もあるため、執筆の際には注意する必要があるというコメントがあった。

福西隆弘氏はマダガスカルで生じた政変によって輸出先が減少した縫製業に注目して、解雇された労働者の脆弱性がどのようなものなのか、サーベイデータを利用して報告を行った。福西氏は社会階層を分類する際に、収入を基本として分類していたが、質疑応答では、貧困層に分類され、そもそも収入が不安定な人々に対しては、収入よりも比較的安定している支出を基礎として分類する方が良いという指摘がなされた。また、今回注目している比較的貧困な縫製労働者がマダガスカル社会において、どのような位置づけにある人々なのかを明らかにして欲しいとの要望が出された。

神代ちひろ氏は、ブルキナファソの農村で女性住民組織が行うマイクロファイナンスをめぐる紛争とその解決方法を紹介した。質疑応答では、そもそもそこで行われている活動がマイクロファイナンスではない可能性が高く、また女性組織という定義にも当てはまらない可能性があるという指摘がなされ、マイクロファイナンスと女性組織の定義を確実にしたうえで、神代氏が見ているものが何なのかをしっかりと把握する必要性が提起された。また、ストーリーとしては、外部からマイクロファイナンスが持ち込まれたものの、ブルキナファソの農村に暮らす女性たちの価値観にそぐわなかったために、マイクロファイナンスを彼女たち自身で、自分たちの文化に根付いたかたちに変化させたと考えることも可能だろうというコメントがあった。(伊藤義将)

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