[第18回全体会議]特別フォーラム「2014年12月のヤウンデ・フォーラムにむけて」(2014年11月8日開催)

日時:2014年11月8日(土)14:00~17:30
場所:京都大学稲盛財団記念館、3階中会議室

プログラム

14:00~14:10
  平野(野元)美佐(京都大学)
「趣旨説明:ヤウンデ・フォーラムにむけて」

14:10~14:35
松本尚之(横浜国立大学)
「ナイジェリアにおける移民と首長位:アフリカの潜在力と伝統的権威」

14:35~15:00
近藤英俊(関西外国語大学)
「関係の呪術的移行:アフリカ妖術研究における対立関係の再考」

15:00~15:25
清水貴夫(総合地球環境学研究所)
「周辺化されるムスリムの生き残りのための非抵抗的な営み:ブルキナファソのムスリム再生産に関して」

15:25~15:40
休憩

15:40~16:05
岡野英之(大阪大学)
「インフォーマル・セクターの公権力化:紛争後シエラレオネにみるバイク・タクシー業界の事例から」

16:05~16:30
大石高典(総合地球環境学研究所)
「カメルーン東南部の近年のカカオ生産拡大過程における土地をめぐるコンフリクト:多民族状況の中での民族間交渉と文化伝播」

16:30~17:30 全体討論

報告

「趣旨説明:ヤウンデ・フォーラムにむけて」
平野(野元)美佐(京都大学)

2014年12月5日と6日に開催するヤウンデの国際フォーラムについて、これまでの準備状況とフォーラムの趣旨、セッションの構成について説明があった。また、キーノート・スピーカーと各発表者の発表内容の要旨について説明がされたのち、今日の全体会議の趣旨が述べられた。(大山修一)

「ナイジェリアにおける移民と首長位:アフリカの潜在力と伝統的権威」
松本尚之(横浜国立大学)

ナイジェリア三大民族のひとつイボ社会は非集権的な社会構造をもっていたが、王位や首長位といった称号が創造され、授与されている。イボは「商業民」や「移民」として知られており、各地に成功した商人がおり、彼らのなかには称号を得るものがいる。このような動きは、称号の売買と非難されることもある。称号が付与された人物は、首長を象徴する衣装を着用し、握手の作法をもち、イベント開催どきに敬意が払われる。称号の付与には3種類があり、(1)故郷コミュニティへの支援に対する証として、故郷コミュニティからの称号の授与、(2)故郷以外のコミュニティからの称号の授与、(3)みずからがコミュニティと称号を創り出すことがある。(3)の場合では、故郷のコミュニティを分割し、王位と首長位が新設される。いずれにしろ、称号が付与されることによって、各地に分散した移民が故郷コミュニティとのつながりを得ている。称号の授与により、移民と故郷の関係が再構築されている。(大山修一)

「関係の呪術的移行:アフリカ妖術研究における対立関係の再考」
近藤英俊(関西外国語大学)

これまでのアフリカの妖術研究において、呪いをかける側とかけられる側の対立軸は富む者と貧しい者というものだった。例えば、妖術の理解として、富む者の観点からは妖術を仕掛けるのは貧しいものが富むものを妬み、富を分配する圧力を掛けていると説明されることが多かった。また、貧しい者の観点からは妖術を仕掛けるのは富む者であり、富む者は妖術を使って貧しい者を労働力として使っていると理解されていると説明する研究もあった。しかし、このような研究の多くは経済的合理性の元に行動する人間の構造を前提としていると同時に、研究者自身の生き様というフィルターを通して妖術を分析している。報告者は妖術の一つ一つの事例を観察し分析すると、人びとは不可解な不幸や理不尽な差異を理解するために、妖術を理由とするという。妖術使い(ウィッチ)と見なされる人びとは決してウィッチ的な生活を送っているわけではなく、他の人びとと変わらない日常生活を送っている。しかし、不可解な不幸に直面した際に、ウィッチとしての力が認識されるという。(伊藤義将)

「周辺化されるムスリムの生き残りのための非抵抗的な営み:ブルキナファソのムスリム再生産に関して」
清水貴夫(総合地球環境学研究所)

ブルキナファソにおいて、イスラーム教徒は周縁化されている。イスラーム教徒の若者は農村部では畑を求めて移動したり、都市部では托鉢をしたりしながら生活している。近年、イスラーム教徒はコーランスクールに近代的な学校教育カリキュラムを導入したようなフランコ・アラブ・スクールを設立し拡大している。このような現象はイスラーム教徒を作り出す場である「学校」を近代化させ、イスラーム教徒のコミュニティを拡大させたいからであると考えられる。(伊藤義将)

「インフォーマル・セクターの公権力化:紛争後シエラレオネにみるバイク・タクシー業界の事例から」
岡野英之(大阪大学)

シエラレオネでは、内戦終結後にバイク・タクシーが急速に増え、現在では基本的な交通手段となっている。最初は元軍人の商売だったが、若い世代が多数参入するようになってきている。バイク・タクシー業界は制度化が進み、それまであった任意団体が統合して2012年には商業バイク運転手組合が設立された。組合は、(1)運転手と乗客、警察、バイク所有者との間の問題解決、(2)保険料を徴収し、運転手のための保険を提供、(3)運転手を管理し、違反者から罰金を徴収するなどの活動をおこなっている。地方NGOの元職員が事務を担当し、公共の目的のための組織という役割が明確になった。組合はコミュニティ・レベルから郡レベル、州レベル、国レベルまで4つの階層から構成されており、上の階層の役員は下の階層の役員によって選出されることになっている。こうした選挙制度が導入されたことによって、選挙における暴力、利益誘導型政治、汚職などアフリカ政治の負の側面が現れ始めている。(市野進一郎)

「カメルーン東南部の近年のカカオ生産拡大過程における土地をめぐるコンフリクト:多民族状況の中での民族間交渉と文化伝播」
大石高典(総合地球環境学研究所)

カメルーン南東部の狩猟採集民バカ・ピグミーの事例から、森のポテンシャルと森の利用をめぐるコンフリクトについて報告した。アフリカ熱帯林では、これまで農耕民と狩猟採集民の間の生態学的「共生」関係があることが報告されてきたが、1980年代に伐採会社が入ってきた後から調査地に定住する移住者が出てきた。こうした移住者は、カメルーン北部のムスリムや西アフリカのサヘル地域の出身者が多く、商業活動にかかわることが多い。この地域では1980年から90年にかけてカカオ栽培が広がってきたが、所有するカカオ園の面積に個人差が広がってきている。開墾したカカオ園の売買が進むと同時に、賃貸契約もバカ・ピグミーからバクウェレ、そしてハウサへという方向性のあるものになっている。こうした流れは、移住してきた商業民が大規模なカカオ園を保有することにつながっている。こうした一連の流れは、将来もっと深刻なコンフリクトを引き起こす可能性を秘めているだろう。(市野進一郎)

全体討論

総合討論では、ヤウンデで開催されるフォーラムについて、西アフリカという地域性という枠組みではなく、経済のグローバル化という側面が共通な話題として議論できるのではないだろうかというコメントがあった。また、フォーラムでは他の発表者の話を意識して報告の内容を修正して欲しいという要望が研究代表者の太田から出された。(伊藤義将)

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