[第7回公開ワークショップ/社会・文化ユニット第6回研究会]Petr Skalník「Chiefdom in Africa: An Institution of the Past or for the Future?」(第7回Kyoto University African Studies Seminar (KUASS) との共催、2012年10月09日開催)

日 時:2012年10月9日(火)15:00 – 17:00
場 所:京都大学稲盛財団記念館3階小会議室1

プログラム

15:00〜16:30
Petr Skalník (University of Hradec Kralove, Czech Republic)
ピーター・スカルニック(フラデツ・クラーロヴェー大学、チェコ共和国)

“Chiefdom in Africa: An institution of the past or for the future?”
「アフリカの首長国―過去の遺物的な制度か、それとも未来に活用できるのか―」

16:30〜17:30
質疑応答

要旨

Chiefdoms have been in many ways transformed during the colonial and post-colonial times but they still exist in many parts of Africa, Oceania, the Americas and even in Asia. In Europe and non-native America various institutions such as political parties, trade unions, sports clubs and corporations function in ways that resemble chiefdoms. Chieftaincy in Africa is partly discredited and partly revered as a moral authority. In Ghana people and ethnic groups, especially those labeled “acephalous” vie for attaining chiefly status. “Chieftaincy quarrels” lead to armed clashes, unrest and loss of identity. At the same time the modern state in Africa is mostly corrupt, structurally weak or violent towards its own citizens. Chiefs still enjoy high moral status or strive to regain it. At the moment one witnesses revival of chiefdoms’ role as central institution of African society. The solution to the dilemmatic situation might be to “tame” the imported state by according to the chiefs the role of watchdog of democracy. I call it the New Indirect Rule, based on equality of state and chiefdom principles. Is it a wishful thinking or a viable project? What can we learn from Africa?

アフリカ、オセアニア、アメリカ、そしてアジアなど、多くの地域に存在する首長国は、植民地時代から各国の独立後の期間に、さまざまな側面で変化してきたが、いまでも存在している。ヨーロッパ社会と(移民による)アメリカ社会では、政党や労働組合、スポーツクラブ、さまざまな法人といった多様な組織が、こうした首長国と同じような機能を担ってきた。アフリカにおいては、首長の名誉や評判は一部では失墜したが、他方では道徳的な権威として尊敬されている。ガーナでは現在、とくに「無頭的(acephalous:首長をもたない)」と形容される民族集団が、首長の地位を確立しようとして張り合っており、武装闘争もひきおこされ、アイデンティティの喪失や社会的不安をもたらしている。同時にまた、アフリカにおける近代国家は、どこでも汚職が横行し、構造的に弱く、そして市民に対して暴力的である。それに対して首長たちは、より高い道徳的地位を維持しているし、また、そうした地位を獲得しようと努めている。すなわち、現在のアフリカでは首長国が、重要な組織・制度として再生・復興しているのである。このような近代国家と首長国のあいだのジレンマに満ちた関係は、どのように解決されるのだろうか。ひとつは、首長たちに民主主義の番人(監視人)としての役割を与えて、外来の制度である近代国家を「馴化する」ことであろう。このことをわたしは、近代国家と首長国の原理の共通性にもとづく「新しい間接統治(New Indirect Rule)」と呼ぶことにする。これは現実性のない希望的観測だろうか、それとも実現と成功が見込める企てだろうか。そしてわたしたちは、アフリカから何を学ぶことができるだろうか。

[第1回アフリカの紛争と共生セミナー]「2011年度海外派遣者報告会」(2012年07月14日開催)

日 時:2012年7月14日(土) 11:15〜14:45
場 所:京都大学稲盛財団記念館3階小会議室

プログラム

11:15-11:45
大野哲也(桐蔭横浜大学)
葛藤する二つの正義―ケニア・カカメガの森の保存に反対する運動から―

11:45-12:15
岡野英之(日本学術振興会特別研究員/大阪大学大学院国際公共政策研究科)
いかに武力紛争は波及するか―シエラレオネ・リベリア紛争にみる武装勢力の同盟網―

12:15-12:45 休憩

12:45-13:15
加藤太(信州大学農学部食料生産科学科・JSPS特別研究員)
氾濫原をめぐる農民と牧民の対立の回避と協調関係の発展
―タンザニア・キロンベロ谷の事例―

13:15-13:45
中沢美保子(神戸大学大学院国際協力研究科博士課程)
タンザニアにおける遺児の生活状況と教育への影響

13:45-14:15
原子壮太(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科研究員)
焼畑耕作における出作り集落の離合集散と森林資源の共有
-タンザニア南東部の山村の事例-

14:15-14:45
山本めゆ(京都大学大学院文学研究科博士課程)
ポスト・アパルトヘイトの南アフリカにおける人種分類の再編成
―華人コミュニティ100年間の経験に注目して―

要旨

葛藤する二つの正義
―ケニア・カカメガの森の保存に反対する運動から―
大野哲也(桐蔭横浜大学)

世界の多くの地域では、小さなコミュニティをいかに活性化させるのかという問題に苦慮している。そのような状況において、それらのコミュニティにある独自の自然や文化を国立保護区にして地域活性化を目指すということが試みられている。政府が自然や文化を国立保護区に指定して、それを観光資源化するのである。

国立保護区には、それ以外にも大きな意味があった。国立保護区の「保護しながら発展を目指す」という理念は、それまで多くの国で維持されてきた「開発か、保護か」という二項対立図式とは大きく異なっていたからである。国立保護区が観光資源化されることで、自然や文化を破壊することなく、保護しながらコミュニティを発展させることができる可能性が開かれたのだ。

ケニアの西部州にあるカカメガの森は国立保護区に指定されている。しかしそこでは、その指定に対して反対を表明している人びとが存在している。なぜ彼らは反対するのだろうか。このような疑問を出発点として、本発表では、反対派の論理を明らかにしながら、小さなコミュニティを活性化するための可能性について、従来の人類学的研究とは異なった視点から考察を進めていく。

いかに武力紛争は波及するか
―シエラレオネ・リベリア紛争にみる武装勢力の同盟網―
岡野英之(日本学術振興会特別研究員/大阪大学大学院国際公共政策研究科)

リベリアで紛争がはじまった1989年以降、その周辺国(シエラレオネ、コートディヴォワール)も武力紛争に巻き込まれている。2012年現在でもコートディヴォワール=リベリア国境において武装集団による襲撃事件がしばしば見られる。紛争は国境を越えて拡大し、一国の紛争が終結しても、隣国では紛争が継続する形で長期化している。いかに紛争は国境を越えて波及するかを探るため、発表者はリベリアとシエラレオネにおいて実際に紛争を経験してきた戦闘員や司令官のライフヒストリーを聞き取ってきた。

シエラレオネ紛争(1991-2002年)では、メンデ人により形成されたコミュニティ・レベルの自警組織カマジョー(Kamajor)がカバー(Ahmed Tejan Kabbah)政権によって組織化され政府系民兵として活動した。しかし、クーデターが発生し、カバー政権が亡命すると、カマジョーは軍事政権の打倒とカバー政権の復帰を掲げ、武力闘争を開始する。本研究は、カバー政権が覆された1997年5月から復帰を遂げる1998年3月までのカマジョーの活動を追う。カマジョーはこの頃、自らを強化するためにリベリアとの国境地域を利用した。この頃、リベリアとシエラレオネとをまたがって活動してきたメンデ人が既存の人脈を用いカマジョーを強化していたことがわかる。

国境を越えた紛争の波及には国境を越えた人脈が密接に関わっている。本発表では、ごく短期間に見られたひとつの武装勢力の変化に注目することにより、ひとつの紛争と隣国の紛争が連関しあっている様子を詳細に検討する。

氾濫原をめぐる農民と牧民の対立の回避と協調関係の発展
―タンザニア・キロンベロ谷の事例―
加藤 太(信州大学農学部食料生産科学科/JSPS特別研究員)

近年、サブサハラ・アフリカでは湿地の開発が急速に進められており、水田や放牧地としての利用が進んでいる。タンザニア中南部に位置するキロンベロ谷は、面積約11,600 km2の広大な内陸氾濫原である。ここでは、1980年代以降水田面積が急激に増加したことで、現在では国内コメ生産量の約1割を生産する大稲作地帯が成立した。また、スクマと呼ばれる牧民が放牧地と水田を求めて移住してきたことで、同地域は家畜、特にウシの生産地になった。

同地域は、これまで水田と放牧地が拡大してきたため、もともと居住していた農民と移住してきた牧民の間で土地争いが頻発するようになった。一時は暴力事件を伴う民族集団間の対立が見られる事態になったが、近年は協調関係もみられるようになってきた。

この背景には、両者の間に牛耕を媒介とした関係が構築された点や、中立な意見を言う両者の「老人」が対立する両者の仲裁に当たったことがあげられる。同地域では老人を敬う習慣や家畜の恩恵など、地域に潜在化していた価値観、技術、資源などが必要に応じて顕在化してきたことが対立を回避し、協調関係を発展させることにつながったといえる。

タンザニアにおける遺児の生活状況と教育への影響
中沢美保子(神戸大学大学院国際協力研究科博士課程)

タンザニアではHIV/AIDSの蔓延などにより、遺児(本研究では「少なくとも片親を亡くした18歳未満の児童」と定義する)やその他の脆弱な児童が急速に増加していると言われており、タンザニア本土では約10%の児童が少なくとも片親を亡くした遺児であると考えられている(TACAIDS,2008 Tanzania HIV/AIDS and Malaria Indicator Survey 2007-08)。こうした遺児の社会経済的状況はより脆弱である場合が多く、特に教育に対する影響は深刻な問題である。

一方で、HIV/AIDSの感染が拡大する以前から、タンザニアでは遺児であるか遺児でないかに関わらず様々な理由から親戚が子供を引き取るケースが見られており、遺児が急増する現在もこのような親類のネットワークがショックを吸収していると言われている。このネットワークの存在は、初等教育の就学率に関して遺児とそれ以外の児童との間に大きな差異がないことの理由としてしもしばしば挙げられてきた。

本研究では、2011年12月から2012年3月にかけてタンザニアの大都市及び地方都市で行ったフィールド調査をもとに、このような脆弱な児童に対する包摂の仕組みが、教育との関係の上でどのように機能しているのかを明らかにし、共生のための潜在力について考察する。

焼畑耕作における出作り集落の離合集散と森林資源の共有
-タンザニア南東部の山村の事例-
原子壮太(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科)

タンザニアでは1970年代後半に集村化政策が実施され、山野に散居していた小集落は政府が定める村に集められた。政府はその集住村に社会サービスを整えていったが、財政難によってその体制は間もなく頓挫した。政府は1986年に経済を自由化し、2000年頃からは地方分権化や貧困削減政策をすすめていった。

タンザニア南東部大地溝帯の山麓に位置する調査地でも、焼畑を生業としていた小集落が集められ、様々な民族集団・クランが同居することになった。彼らの生活様式は2年ごとに畑と住居を移動するものであったが、定住化によって集落周辺の林が集中的に開墾されるようになった。これに先立つ1972年頃、この地域に自生するタケが一斉開花し、その種子拡散によって焼畑跡地はまたたく間に竹林に変わった。竹林での焼畑造成には手間がかかるため、彼らは竹林の外側に広がる森林地帯に小さな出作り集落をつくって従来の焼畑耕作を続けていった。2000年代に入ると外部との道路が整備され、僻地の集落にも市場経済が浸透していった。彼らは集住村に屋敷を構え、政府が提供する社会サービスや市場とのつながりを確保しつつ、竹林の拡大によって遠隔地化・狭小化した森林を耕作していった。出作り集落の構成員は流動的で、耕地を移動するたびに離合集散していたが、それは森林資源の共有と、密集した居住にともなう住民間の緊張を緩和するのに貢献していた。

ポスト・アパルトヘイトの南アフリカにおける人種分類の再編成
―華人コミュニティ100年間の経験に注目して―
山本めゆ(京都大学大学院文学研究科博士課程)

アフリカにおける華人という移民マイノリティ集団は、20世紀初頭に初めてのカラーバー導入のきっかけを作るなど、少数者ながら南アフリカ社会と人種政策に影響を及ぼしてきた。民主化以来、南アフリカのエスニック・マイノリティにとっても和解が重要な課題となってきたが、華人もまたアパルトヘイト期の記憶をめぐってコンフリクトの渦中にある。今回の報告では、主にこれまでの文献調査の成果をもとに、南アフリカの人種主義研究において華人に注目する意義について報告したい。とりわけ1)19世紀末以来の華人の地位の変遷、2) 華人コミュニティが「black」に再分類された 2008年のプレトリア高裁判決とその影響に注目する。

[第6回公開ワークショップ/西アフリカ・クラスター第2回研究会]佐藤章「コードジボワールに見る紛争解決のジレンマ」(第186回アフリカ地域研究会との共催、2012年02月16日開催)

日 時:2012年2月16日 (木)15:00〜17:00
場 所:京都大学稲盛財団記念館3階中会議室

プログラム

「コードジボワールに見る紛争解決のジレンマ」
佐藤 章(アジア経済研究所・副主任研究員)

要 旨

アフリカの紛争では,国連や先進国が解決に向けて積極的な取り組みを行なうが,その努力が速やかに実を結ぶことはまれである.治安回復に大きな役割を果たす平和維持部隊は,しばしば逆に軍事的状況を刺激することがあるし,無事に選挙にこぎ着けたとしても,それだけで永続的な平和が約束されるわけではない.和平プロセスの締めくくりとなる2010年選挙を契機として,内戦が再燃する事態に至ったコートジボワールの経験は,このジレンマの典型を示している.コートジボワールの和平プロセスを振り返りながら,なぜこのような事態に至ったのかを考察し,国際的主体による外部介入が直面するジレンマとその根底にある原因を検討することで,アフリカの紛争解決の難しさについて考えてみたい.

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[第5回公開ワークショップ/西アフリカ・クラスター第1回研究会]「ナイジェリアにおける地域紛争の最新報告~資源開発地域とイスラーム地域での地域紛争」 (第5回Kyoto University African Studies Seminar (KUASS)との共催、2012年02月15日開催)

日 時:2012年2月15日(水)15:00 ~ 17:00
場 所:京都大学稲盛財団記念館3階中会議室 (京都市左京区吉田下阿達町46)
共 催: 科学研究費補助金基盤研究(B) 「アフリカの地域紛争にみられる新兆候に関する研究:ナイジェリアの事例を中心に」
科学研究費補助金基盤研究(S) 「アフリカの潜在力を活用した紛争解決と共生の実現に関する総合的地域研究」

プログラム

・Dr. C. Ukeje(オバフェミ・アオゥロウォ大学)
「Nigeria: The Post-Amnesty Blues and the Future of Insurgency in the Niger Delta」
・Dr. M. Raufu(オックスフォード大学)
「Boko Haram: The long road to Islamic Terroism」
アブストラクト(PDF File)>>

報告

オックスフォード大学のA. R. ムスタファ博士には『ボコ・ハラム:テロリズムに至る長い道のり』、オバフェミ・アウォロウォ大学のC. U. ウケジェ博士には『ナイジェリア:特赦後の不安定要素とニジェールデルタ地域における暴動』と題する報告をしていただき、その後に質疑と討論をおこなった。前者の報告は、2009年以降、東北部ナイジェリアを中心に過激な反政府運動を続けるイスラーム集団ボコ・ハラムが、国際的テロ組織と連携したテロ集団であるというよりも北部ナイジェリアの非主流イスラーム集団として政治的経済的に疎外されてきた若者達が中心となった組織である可能性を指摘したものである。また、後者の報告では、2009年にヤラドゥア前大統領のもとで開始された武装解除を条件にした特赦政策が、具体的な実施過程で必ずしも紛争解決へのステップとなっていない実態が指摘された。いずれの研究も、紛争が生起するローカルな現場の実態を探る必要性を指摘したものであった。

[第4回公開ワークショップ]佐川徹「個から捉える戦いと和解の実相―東アフリカ牧畜社会の地域紛争」(第185回アフリカ地域研究会との共催、2012年01月19日開催)

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日 時:2012年1月19日 (木)15:00〜17:00
場 所:京都大学稲盛財団記念館3階中会議室

題 目:「個から捉える戦いと和解の実相~東アフリカ牧畜社会の地域紛争」
発表者:佐川 徹(京都大学アフリカ地域研究資料センター・助教)

要 旨: 東アフリカの乾燥地域にくらす牧畜民は,長年にわたって近隣集団との武力紛争を重ねてきた。とくに1980年代以降は、小型武器の拡散や若者の犯罪集団化、気候変動による環境劣化などによって、地域の治安状況が悪化の一途をたどっていることが報告されている。このように、紛争が起きる一般的背景を列挙していくと、牧畜社会の将来には悲観的な展望しか抱くことができない。それに対して本発表では、実際に紛争下で生活を営む個人レベルの視点から紛争を捉えなおし、個人の戦場での経験や、個人がつくりだしている社会関係の中にこそ、紛争をより非暴力的なものに転換していくためのヒントが隠れていることを論じたい。

[第3回公開ワークショップ/社会・文化ユニット第3回研究会]「現代アフリカにおける先住民と市民社会」(第2回Kyoto University African Studies Seminarとの共催、2011年10月21日開催)

「現代アフリカにおける先住民と市民社会」
京都大学アフリカ地域研究資料センター 
第2回Kyoto University African Studies Seminar

日 時: 2011年10月21日(金)15:00-18:00
場 所: 京都大学稲盛財団記念館小会議室2 (http://www.asafas.kyoto-u.ac.jp/about/access.html)
共催:京都大学アフリカ地域研究資料センター

プログラム

15:00-15:10 趣旨説明
15:10-16:30 ジョン・ギャラティ(マッギル大学) 「マサイにおける土地紛争と市民社会―ローカルな闘争とグローバルな聴衆」
16:30-16:40 休憩
16:40-18:00 丸山淳子(津田塾大学) 「再定住、開発、先住民運動―南部アフリカ、サン・コミュニティの二つの事例から」

Date: 15:00-18:00 21 Oct 2011
Venue: Small Seminar Room, 3F Inamori Bldg., Kawabata Campus http://www.asafas.kyoto-u.ac.jp/en/about/access.html
15:00-15:10 Introduction
15:10-16:30 John Galaty (McGill University) “Maasai Land Conflicts and Civil Society: Local Struggles and a Global Audience”
16:30-16:40 Coffee break
16:40-18:00 Junko Maruyama (Tsuda College) “Resettlement, Development and Indigenous Peoples’ Movement: Two Cases from San Communities in Southern Africa”

発表要旨

John Galaty “Maasai Land Conflicts and Civil Society: Local Struggles and a Global Audience”

The ascendency of the state in Africa and the process of privatizing agrarian land has made many rangeland communities vulnerable to having their mobility drastically curtailed and even to losing their land. This paper will examine the opportunistic seizure of pastoral lands by a variety of actors, including smallholder farmers, political class, entrepreneurs, commercial farmers, speculators, conservationists, tour operators, miners, and foreign states, from the colonial period to the present. From small- to large-scale, valuable pastoral lands have been or are being acquired through local incursions, state allocation or purchase, promising to use it for highly efficient commercial agriculture, or by conservation groups and entrepreneurs who vow to protect wildlife and at the same time propagate high-end lucrative tourist ventures. Land displacements have come to represent a major cause of violent conflicts and legal disputes in pastoral regions. In recent decades, organizations of civil society have increasingly sprung up to defend pastoral land rights, often linking their causes to claims of indigeneity anchored in the creation of the Permanent Forum on Indigenous Issues. The global audience for indigenous land loss and the advocacy of national and international civil society has both mitigated and stimulated local conflicts. Paradoxically, as indigenous land rights have been recognized, actual land loss has accelerated due to the increasingly aggressive role of the state in large-scale land acquisitions by outside parties. This paper will examine the interaction between land grabbing, land losses, and land conflicts, and role played by civil society and assertions of indigenous rights in Eastern and Southern Africa, with special focus on the experience of the Maasai of Kenya and Tanzania.

Junko Maruyama “Resettlement, Development and Indigenous Peoples’ Movement: Two Cases from San Communities in Southern Africa”

The notion that indigenous peoples should have the right to maintain their distinct cultures, lifestyles, and territories has become widely accepted within the international community during the last two decades. While the concept “indigenous peoples” is highly controversial in African context compared with the more consensual situation in nations with white settlers, the San hunter gatherers of Southern Africa also have been involved in global indigenous peoples’ movement, and become one of the best-known “indigenous peoples” in Africa. Indeed, recently some groups of the San have successfully acquired land rights, with the support of the global movement. Of these, two cases from Botswana and South Africa will be highlighted in this presentation; Botswana San won in court the right to return to their land in nature conservation area, and the San in South Africa were handed over land title deeds from President Mandela. Both cases were hailed by NGOs, activists, and the mass media as a landmark for the rights of indigenous peoples in Africa. This presentation will analyze the historical backgrounds and the negotiation process of these two cases, and then elucidate the San’s livelihood and social relationships after they gained land-use rights. Finally, by comparing both cases, dynamics underlying relationships between the San and national and international communities, and positive and negative impacts of the global indigenous peoples’ movement on the San will be discussed.

報告

ジョン・ギャラティ(マッギル大学) 「マサイにおける土地紛争と市民社会―ローカルな闘争とグローバルな聴衆」

ギャラティ氏は、東アフリカ牧畜社会で進展している開発プロジェクトに関する発表をおこなった。とくに多様なアクターを巻き込みながら展開している、牧畜民が利用している土地の剥奪について中心的に論じた。それらの土地は、大規模商業農場や野生動物保護区にすることなどを目的として、国家や外国・国内企業などが取得している。またより小規模ではあるが、農耕民による放牧地の農地化も進められてきた。この土地剥奪は牧畜集団間の土地をめぐる相克を深める危険がつよいが、近年では市民社会組織らが「土着性(indigeneity)」の主張を武器に、牧畜民の土地権利を保護するための活動をおこなっている。これらの組織の活動は、ローカルな紛争を緩和することがある一方で、新たな対立軸を地域に持ち込むことで、紛争をより複雑なものにすることもある。そして皮肉なことに、グローバルな市民社会組織の権利保護活動が高まりつつある時期に、国家は外国資本などによる大規模な土地取得を擁護する政策を取っているのである。

丸山淳子(津田塾大学) 「再定住、開発、先住民運動―南部アフリカ、サン・コミュニティの二つの事例から」

アフリカでは、アメリカ大陸やオーストラリアとは異なり、「先住民」という概念はきわめて論争的な概念である。丸山氏は、アフリカの「先住民」としてもっともよく知られた集団の一つであるサンの人びととグローバルな先住民運動とのかかわりを、ボツワナと南アフリカの事例から比較検討した。サンは近年になって、グローバルな先住民運動からの支援を受けつつ、土地への権利を取得することに成功した。ボツワナでは、司法判断により自然保護地域とされていた彼らのもともとのテリトリーが返還されることになり、南アフリカではマンデラ大統領による土地権利譲渡によって土地を獲得した。丸山氏は、両地域の土地取得にいたるまでの歴史的背景やローカル、ナショナル、グローバルなアクターを巻き込んだ先住性をめぐる交渉プロセス、そして土地取得後のサンの人たちの生活戦略を分析したあと、グローバルな先住民運動がサンにもたらしたポジティヴ、ネガティヴな側面をまとめた。

 

 

[第2回公開ワークショップ]荒木茂「サイエンスと地域研究の狭間で―実践的地域研究の試み」(第181回アフリカ地域研究会との共催、2011年7月21日開催)

日 時:2011年7月21日(木)15:00 ~ 17:00
場 所:京都大学稲盛財団記念館3階中会議室

題 目:サイエンスと地域研究の狭間で-実践的地域研究の試み
発表者:荒木 茂(京都大学アフリカ地域研究資料センター・教授)

要 旨:サイエンスが世の中にどれだけ役に立ってきたか、ということに対する疑問は多く挙げられてきた。福島原発事故がそれを加速することは必至である。しかし、地域研究が文理融合、学際的アプローチによって(個別科学を具体的場面に役立てる手段として)サイエンスを飼い慣らすことができれば、実践的地域研究として復権する可能性を秘めている。本発表は、開発に関わる科学者の仮説と、現地の人々の実践が邂逅する点をさぐるプロセスを、「不確実性の科学」として定置する試みを、カメルーンにおけるJST/JICA「森林-サバンナ持続性プロジェクト」を例に紹介したい。

[第1回公開ワークショップ]福西隆弘「グローバル化経済におけるアフリカ企業の変化」(第180回アフリカ地域研究会との共催、2011年06月16日開催)

日 時:2011年6月16日(木)15:00 ~ 17:00
場 所:京都大学稲盛財団記念館3階中会議室

題 目:グローバル化経済におけるアフリカ企業の変化
発表者:福西 隆弘(アジア経済研究所)

要 旨:貿易自由化が実施されてから、アフリカ諸国の経済ではグローバル化が急速に進んできた。それはまず輸入品、特に工業化に成功したアジアからの工業製品輸入の急激な増加として表れたが、近年では、アフリカ諸国に対する外国直接投資やアフリカから欧米市場への輸出も増えている。持続的な経済成長の原動力として、アフリカでも工業部門への期待が高まっているが、果たして成果が現れているのだろうか。本発表では、アフリカからの輸出が増加してきた縫製産業を対象に、ケニアとマダガスカルにおける企業の能力の変化について、アジアの低所得国の企業との比較を通じて検討を行う。