[生業・環境ユニット第9回研究会]熱帯森林利用のローカル・ガバナンスの可能性に関する地域間比較Ⅱ(第5回京都大学地域研究統合情報センター共同研究会および第6回アフリカ自然保護研究会との共催、2014年07月19日開催)

日 時:2014年7月19日(土)14:00〜18:00
場 所:京都大学稲盛財団記念館2階213号室

プログラム

松浦直毅(静岡県立大学)
「人間と野生動物の共生に向けた人類学者と動物学者の協働の可能性
 ―アフリカ熱帯林保全の現場から」

竹ノ下祐二(中部学院大学)
「”仕事村”から”ゴリラ村”へー伝統でないものとしての自然」

報告

松浦直毅(静岡県立大学)
「人間と野生動物の共生に向けた人類学者と動物学者の協働の可能性―アフリカ熱帯林保全の現場から」

アフリカの野生生物保全の現場では、自然科学的バックグラウンドを持ち、野生動物の生息状況や密猟、生息地破壊といった保全上の危機に強い関心を持つ「動物学者」と、社会科学的視点から地域住民の権利や生業の持続性に注目する「人類学者」 との協働が期待されている。発表者は、自然科学者が主導するJST/JICAプロジェクトの中で、コミュニティの参加を促す活動を担当する社会科学者としての経験の詳細について報告した。対象地であるガボン・ムカラバでは、野生ゴリラの研究と保全を達成するために、野生動物による農作物被害の緩和や、観光活動への住民参加、環境教育活動が試みられている。その中で、参加が望まれているコミュニティとはそもそも何か、プロジェクト自体が村の持続性に影響を与えていること、住民参加という枠組み自体が外部からの押しつけである、など、多くの興味深い問いが提起され、それについて活発な議論が交わされた。(山越言)

竹ノ下祐二(中部学院大学)
「”仕事村”から”ゴリラ村”へー伝統でないものとしての自然」

松浦報告に引き続き、野生動物保全の現場に横たわる「野生動物」と「地域住民」、「自然科学」と「社会科学」、「研究」と「実践」という困難な二項対立について、報告者はムカラバ・プロジェクトの研究史をひもときながら、興味深い多くの事例を紹介した。しばしば社会科学者から指摘される保全に対する自然科学者の独善や「自然」の特権化について、報告者は率直な自己批判に基づきながら、プロジェクトの開始当初から自然科学者として現場に関わった自身の立場を透明化することなく、相互に影響を与えあうアクターとして自己言及的に位置づけることから反論を行った。自然科学者と社会科学者がそれぞれの研究対象を「代弁」する事について参加者の間でも率直な意見交換が行われた。JST/JICAの大型プロジェクトによる現場への関与がもたらした功罪について興味深い分析が紹介され、とくにプロジェクトの自己目的化により、ゴリラと村人という真の受益者のことが忘れられがちになるという指摘がなされた。そのような硬直化した状況を乗り越えるため、「物語ツーリズム」の導入など、いくつかの興味深いアイデアと将来像が提示された。(山越言)

[生業・環境ユニット第8回研究会]熱帯森林利用のローカル・ガバナンスの可能性に関する地域間比較(第4回京都大学地域研究統合情報センター共同研究会および第5回アフリカ自然保護研究会との共催、2014年06月21日開催)

日 時:2014年6月21日(土)14:00-18:00
場 所:京都大学稲盛財団記念館2階213号室

プログラム

山越言(京都大学)
「ギニアの精霊の森のガバナンスをめぐるせめぎあい」

竹内潔
「熱帯森林の豊穣性-持続的利用のワイズ・ユース再考」

報告

山越言(京都大学)
「ギニアの精霊の森のガバナンスをめぐるせめぎあい」

最初に、アフリカにおける自然保護は植民地行政の主導で始まったものであり、自然保護区のデザインは、西欧文化の中で発展した自然観に基づくものであることが指摘された。近年、アフリカの自然保護区では、要塞型保全に代わり住民参加型保全が標準になり、一見ボトムアップ型になったように見えるが、地域住民にさほどの決定権は与えられていない。むしろ、地域住民の間でアクター間の対立が起きるなど、わかりやすかった構図がより複雑になったともいえる。ギニア中部、森林・サバンナ境界域における村落周辺林の成立に関する議論では、「人間活動が森を破壊してきた」という一般論と「人間活動が森を増やしてきた」という内部者の経験知がしばしば対立する。そうした議論を踏まえて、住民主体的なチンパンジー保護がおこなわれてきたギニア、ボッソウ村バンの森の事例が紹介された。村に政府系研究所が設立されたことをきっかけに、森の管理権に関わる村人の抵抗運動が起きた。こうした抵抗運動の中で、平和時には顕在しない在来の自然資源管理デザインについて垣間見ることができた。村人は「森を伐ったほうがチンパンジーのために良い」「森が増えてきてチンパンジーが困っている」といった説明をした。これは森を切り開き、畑を作ることで、チンパンジーは畑の作物を食べることができ、さらに村人とチンパンジーとの出会い頭の事故を防ぎ、人身被害を予防できるという主張である。住民参加型保全では、呉越同舟するアクター同士間に相互理解が必ずしもないまま、いっけん一つの方向に向かっているように見える、メコネサンス(相互誤認)的な状況が成り立っている可能性がある。また、参加型保全が重視する観光収入の地域への還元に代表される保護活動の市場経済化は、消費者である先進国の観光客の意向がより直接に反映される可能性があり、今後、「自然保護区のディズニー化」といえる現象が生じるかもしれない、という議論がなされた。質疑応答では、「精霊の森」が物語とともにあるフィクションではないかという意見や住民の関心が森林動物よりも生業・生活にあるのではないかという意見が出された。(市野進一郎)

竹内潔
「熱帯森林の豊穣性-持続的利用のワイズ・ユース再考」

東アフリカなど他の地域からかなり遅れたが、今世紀に入って、中央アフリカ熱帯森林帯においても、住民参加を謳う森林保全管理が導入されるようになった。しかし、実際には、政府や自然保護NGOが一方的に設定したゾーニングによって地域住民の森林利用が著しく制限され、住民の生活文化の存続が困難になっている例も少なくなく、とりわけ、狩猟採集を生業としてきたピグミー系民族集団は厳しい状況に置かれている。  

本報告では、このような状況を踏まえて、森林と地域住民の関係をめぐる論説が紹介され、また、アカ人の狩猟活動を例として、研究者がローカルな価値を媒介して現在の森林管理を支えるグローバルな価値論理への対抗言説を立てる可能性が探られた。

まず、地域住民についての論説は、過去においては技術水準が低かったために環境破壊に至らなかったが、外部からの経済的・技術的誘因があれば経済的便益のために森林や生物多様性を破壊する功利主義的な存在とする言説と、生業文化に埋め込まれた意図的あるいは(小規模人為攪乱などの)非意図的な在来の知によって森林の持続的利用や生物多様性を維持する環境と調和した存在とする言説に大別される。しかし、森林を希少な経済的・生物学的な資源と前提し、持続的利用と生物多様性保全の尺度で地域住民の営為を評価する点ではどちらの住民像も同工異曲であり、「資源の希少性」の尺度に立つ限り、現地住民は「科学的」管理に掬いとられるか、啓蒙や便益調整が施される操作対象にとどまり続けるという指摘がなされた。

次に、ローカルな森林の価値について、アフリカ、コンゴ共和国の熱帯森林に居住するピグミー系狩猟採集民アカ人の集団網猟の事例が紹介された。集団網猟は、猟場の生態学的特徴に応じた技法を持つ、すぐれて技術的な食糧獲得手段であると同時に、生活単位である家族集団が複数集まって協働し、交流する営為だとされる。参加者たちが、狩猟に費やすのと同程度の時間を歓談に費やし、さらに、猟果が芳しくない時でも、歓談時間を減らして猟の回数を増やし、網で囲い込む森林面積を拡大してエモノの獲得可能性をあげるという対処がとられないことが、計量的に示された。このようなアカの狩猟実践の根底には、不運(不猟)だけでなく(そのうち)必ず幸運(豊猟)も与えてくれ、交流と歓談の機会をたっぷりと提供してくれる森林の「豊穣性」に対する信念があることが指摘された。アカ人にとって、森林は個々の経験や人生と分かちがたく結びついた生きられる場であって、人間に様々な経験を供する豊穣の価値(即自的価値)は認められても、使用価値や交換価値などの経済的便益や生物学的多様性が産み出される客体化された「資源」ではないという考察が示された。

さらに、生物学的多様性や持続的利用などの「希少性」の「大きな物語」に対して、アカ人のような政治的凝集力をほとんど持たない人々の様々な「小さな物語」を文化保全という別の「大きな物語」の内実へと繋いでいくことが、現地に足場を置く研究者がなしうる仕事であり、また、西欧近代由来の自然観から脱却した新たな視野の地平を拓く橋頭堡だという主張がなされた。

以上の報告に対して、質疑応答では、管理をめぐる諸アクターの動態は多面的であり、グローバルな価値を静態的かつ単純化して捉えているという指摘があった。また、アカ人のローカルな価値についての具体的立証が不十分である、グローバルな価値を利用しつつ住民の社会文化存続の方途を考える方向性もありうるといった意見が示された。(竹内潔)

[生業・環境ユニット第7回研究会/第14回公開ワークショップ]山本佳奈「共有地をめぐる住民の対立―タンザニア農村の季節湿地における耕地拡大」(第196回アフリカ地域研究会との共催、2013年06月20日開催)

日時:2013年6月20日(木)15:00〜17:00
場所:京都大学稲盛財団記念館 中会議室

プログラム

「共有地をめぐる住民の対立―タンザニア農村の季節湿地における耕地拡大」
山本佳奈(日本学術振興会特別研究員(PD)/京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科)

要旨

アフリカ各地に分布する湿地の大部分は、地域住民が共同で利用する共有地として存在してきたが、近年になって耕地が拡大し、世帯ごとに囲い込まれる傾向にある。湿地の耕地化はしばしば人々の間に利害関係を生みだし争いの種にもなっている。本発表ではタンザニア農村の季節湿地で耕地が拡大した経緯と背景を示しつつ、その過程で環境利用をめぐり争いながらも現状に合った共有地のあり方を模索していく人々の姿を明らかにする。

[生業・環境ユニット第6回研究会]目黒紀夫「『共存』に回収されるマサイ?―〈抵抗〉と〈歓待〉が交錯するケニア南部の野生動物保全の現場から」(第4回アフリカ自然保護研究会との共催、2013年1月25日開催)

時 間:2013年1月25日(金)15時30分~
場 所:稲盛記念館 小会議室2

プログラム

15:30-17:00 目黒紀夫(東京大学)
「『共存』に回収されるマサイ?―〈抵抗〉と〈歓待〉が交錯するケニア南部の野生動物保全の現場から」

要旨

アフリカの野生動物保全をめぐっては、1990年代以降、コミュニティ志向のアプローチが各地で展開されている。だが、具体的な政策やプロジェクトの形成段階に地域社会が参加できているとは言い難く、外部主体の保全の取り組みに地域社会が抵抗する事例は歓待や協働と並んで報告されてきた。そこにおいて地域社会も外部世界も現実には決して一枚岩的な集団ではなく、複数の地域住民と複数の外部者との間で同時並行的かつ競合的に複数の関係が築かれている状況を踏まえるならば、抵抗や歓待の行為主体とされる「地域社会(コミュニティ)」が今日いかにして組織・編成されているのかを再検討することも重要な課題である。

本報告ではケニア南部アンボセリ生態系のマサイ社会を対象に、国会的・国際的に推し進められる「共存」を目指した保全政策に対して、同時期に発生した2つの事例を取り上げる。一つ目の事例ではバッファローが少年を殺したことをきっかけに数百人の戦士が野生動物を殺害して回り、最終的に「コミュニティ」と政府とが国立公園の管理をめぐって話し合いを行うこととなった。一方、それとほぼ同時期に起きた二つ目の事例では地域住民が私費を投じて保全プロジェクトを開始、白人観光業者を「保全のリーダー」と称賛しつつ多様な外部組織は「コミュニティ」と協力して保全を進めるべきだとの主張が「コミュニティ」側から提起された。一見したところ2つの事例は〈抵抗〉と〈歓待〉という形で極めて対照的な出来事に見える。だが、「コミュニティ」が自らを野生動物と「共存」してきた存在として自己(集団)表象し外部者に何らかの要求を突き付けたという点で共通しており、政策目標である「共存」に「コミュニティ」が従来以上に同意しているかのようにも見える。この点について本報告では、そこにおける「コミュニティ」レベルの自己表象と具体的な行動がどのように形成されているのかを検討することを通じて、「地域」と「外部」といった空間的二分法が無効化している現状であればこそ大多数の地域住民の意向に反する形で「共存への回収」が進行している事態を明らかにする。

[生業・環境ユニット第5回研究会/第8回公開ワークショップ]根本利通「タンザニアの国民意識の形成」(第191回アフリカ地域研究会、2012年11月15日開催)

日 時:2012年11月15日 (木)15:00〜17:00
場 所:京都大学稲盛財団記念館3階318室

プログラム

「タンザニアの国民意識の形成」
根本利通(Japan Tanzania Tours Ltd.)

要 旨

1885年のベルリン会議によって分割されたアフリカ大陸では、多民族の住む地域に国境線が与えられた。この各植民地が独立し、国民国家の形成を目指す中、その多くが民族紛争を繰り返すことになった。しかしタンザニアは独立50周年を過ぎ、大きな民族対立、内戦を経験せずにきている。タンザニアの近現代を19世紀半ばから振り返ってみたい。

[生業・環境ユニット第4回研究会]加藤太「氾濫原をめぐる農民と牧民の対立の回避と協調関係の発展:タンザニア・キロンベロ谷の事例」(2012年02月18日開催)

日 時:2012年2月18日(土)11:00-14:00
場 所:京都大学稲盛記念館3階 小会議室1

プログラム

「氾濫原をめぐる農民と牧民の対立の回避と協調関係の発展:
タンザニア・キロンベロ谷の事例」
加藤太(信州大学 農学部)

報告

タンザニア中南部のキロンベロ谷に居住する農民と牧民を対象に、両者の生業とそれをとりまく社会・経済的な背景を関連づけながら、異なる生業や価値観をもつ民族集団の関係が対立から協調へと変化したことについて発表した。

キロンベロ谷では、1970年代より稲作が開始され、構造調整政策期を経て、現在では大稲作地帯へと発展している。農民ポゴロ(80%)、半農半牧民スクマ(20%)という人口構成比ではあるが、ポゴロには集住化政策によって多様な民族集団がふくまれている。ポゴロの主要な生業は水田稲作であり、トラクターによる耕起と種子の直蒔き、農薬・除草剤の利用を特徴とする水田耕作がおこなわれ、雨期の短期間に集中する洪水を利用する。一方、スクマは半農半牧であり、牧畜(とくにウシ)に高い社会的価値を置き、1980年代後半にキロンベロ谷に移住してきた。スクマは牛耕を中心に、苗床の作成と稲苗の移植、畦の作成によって、場所を選ばない水田の造成をおこなっている。ポゴロの水田面積は平均1.3ha、スクマのそれは平均2.6haであり、スクマはより少ない投入財と経費で、より多くのコメ売却益を得ている。この収入はウシの購入に充当されている。1,000頭ちかいウシを所有する男性は、スクマ社会ではサビンターレという敬称で呼ばれ、ソーラーパネルやテレビを所有する世帯も多い。

2005年までは、スクマは未利用の氾濫原を家畜の放牧地として、またポゴロが利用しない土地を水田として利用し、スクマとポゴロのあいだでは土地利用をめぐる競合はなかった。また、1974年にはキロンベロ谷はWildlife Conservation Actの施行によって、自然保護の網がかけられ、狩猟や漁撈は禁止されて、場所によっては水田耕作が制限されるようになった。ラムサール条約の指定にともなって、2005年にはプク・アンテロープ、ティラピア、卵生メダカの保護が盛んに進められるようになる。動物保護区の厳格な運用、ポゴロの水田造成にともなって、氾濫原の利用がスクマとポゴロのあいだで競合が生じるようになった。2006年、ポゴロによる大規模な氾濫原の耕起と、それを阻止しようとするスクマの襲撃によって、集団乱闘事件が生じ、関係は悪化した。ポゴロはこの対立について「民族間対立」とみなす一方で、スクマは定住しつづける者と、移出した者に分かれた。定住するスクマは、ポゴロに対する報復を拒否した。

2006年、ハリケーンの襲来によって、氾濫原の水位が上昇した結果、トラクターによる耕起は不可能となり、ポゴロは対立関係にあったスクマの牛耕に依存せざるを得なかった。スクマがウシによってポゴロの水田を耕作したこと、県行政官によってポゴロの逮捕者を出したこと、年長者(wazee)の仲裁によって両者の対立が回避された。年長者の面子をつぶさないために、スクマとポゴロ両者の若者が謝罪し、和解へと向かい、放牧地と水田の境界線が策定された。また、自然保護政策の強化にともなうスクマの追い出しと土地利用(居住、水田)の規制が進められた。ポゴロは当初、スクマの追い出しには賛成していたが、水田耕作が禁止されることを予想したのを契機として、スクマの追い出し反対と水田耕作をまもろうとすべく、中央政府や地方政府に対して陳情を繰り返した。民族集団という枠組みを超えて、ひとつの村の住民として、個人間の関係を築くようになった。調査村の民族間関係には、立ち上がり(対立関係)、昂揚、沈静という時期が存在し、現在では個人間の友好関係が築かれるにいたっていると結論づけた。(大山修一)

 

 

[生業・環境ユニット第3回研究会](2011年11月26日開催)

日 時:2011年11月26日(土)15:00~17:00
場 所:京都大学 楽友会館 会議室5

プログラム

経緯と趣旨説明 メンバーによる研究紹介と話題提供 今後の方針についての討論

報告

まず、本ユニットの経緯と趣旨について世話人の山越言さん(京都大学)より説明があった。そして、第1回目の研究会「タンザニア農村における対立回避のメカニズム」、第2回の研究会「アフリカ自然保護の潮流:原生自然保護から住民参加型保全、そして新自由主義へ?」の開催について、伊谷樹一さん(京都大学)と山越言さんから参加者に対して説明があった。第1回目では、タンザニアの村落社会において争いの拡大を未然に防ぐ、紛争回避に関する事例を紹介したうえで、社会に内在する紛争回避メカニズムに関する議論がおこなわれた。第2回目では、自然保護をキーワードにして、環境保護を進める国家、国際NGOといった外部社会と地域コミュニティとの接触が契機となって引き起こされるコンフリクトを取り扱った。そののち、各メンバーが研究内容、関心について紹介したのちに、ユニットの方向性を討議した。本ユニットの性格上、紛争や内戦そのものを取り扱うことは難しいが、外部社会の変化に対する各アクターの対処方法、あるいは紛争の拡大を未然に防ぐ村落社会に内在する紛争回避メカニズムと在来性のポテンシャルに焦点をあてていくことが、ひとつの方向性として確認された。重要なキーワードとしては水、土地、植物、動物をめぐるコンフリクト、国家政策や援助計画、気候変動、ダム建設やツーリズムの導入がもたらす村落社会へのインパクトとその住民対応、市場経済や経済格差のなかでの平等性のあり方などが挙げられ、外部社会からのインパクトを考慮に入れつつ、地域社会のミクロな動きに着目していく方針が立てられた。(大山修一)

[生業・環境ユニット第2回研究会]「アフリカ自然保護の潮流:原生自然保護から住民参加型保全、そして新自由主義へ?」(第2回アフリカ自然保護研究会との共催、2011年11月06日開催)

日 時:2011年11月6日(日)
場 所:京都大学稲盛財団記念館3階中会議室 (第2回アフリカ自然保護研究会と共催)

プログラム

13:30-13:45 山越言(京都大学)
趣旨説明『日本におけるアフリカ自然保護研究史』
13:45-15:00 目黒紀夫(東京大学) 『人間と野生動物の共存を考える視点としての「かかわり」』
15:00-15:30 コーヒーブレイク
15:30-15:45 池野旬(京都大学) 『コメント』
15:45-16:30 討論 (これからの自然保護研究の方向性について)

発表要旨

『人間と野生動物の共存を考える視点としての「かかわり」』 目黒紀夫(東京大学)

1990年代以降、アフリカの野生動物保全では「コミュニティ主体の保全」が 新たな保全パラダイムとして位置づけられるようになった。しかし、一言に 「コミュニティ主体の保全」といっても、そこには少なくとも、功利主義的 な「便益アプローチ」と新自由主義的な「権利アプローチ」そして熟議民主 主義の流れを汲む「対話アプローチ」の3つの潮流が確認できる。そして、 それらのアプローチは経済的便益や私的権利、対話の機会を実現することで 「保全」が「成功」すると想定しているが、そこではローカルな人間と野生 動物のかかわり(の多様性・地域性)はまったくといっていいほどに考慮 されていない。 本発表では、ケニア南部アンボセリ生態系のマサイ社会において90年代以降 に取り組まれてきた複数の「コミュニティ主体の保全」を事例として、上述 の各アプローチの妥当性を検討するとともに、ローカルな「かかわり」を 見ることの重要性(見ないことの問題性)を考えていきたい。

 

 

[生業・環境ユニット第1回研究会]「タンザニア農村における対立回避のメカニズム」(2011年10月29日開催)

日 時:2011年10月29-30日
場 所:長野県下伊那郡阿智村・中央公民館 会議室

プログラム

10月29日(土)
13:00 伊谷樹一(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科・准教授)
趣旨説明
13:15 伊谷樹一 住民間の対立を調停する組織・ワゼーワミラ
14:15 黒崎龍悟(福岡教育大学教育学部・講師)
対立回避の事例報告:ルヴマ州ムビンガ県キンディンバ村
15:15 荒木美奈子(お茶の水女子大学大学院人間文化創成科学研究科・准教授) 対立回避の事例報告:ルヴマ州ムビンガ県キタンダ村
16:15 原子壮太(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科・研究員) 焼畑共同耕作グループの解散と再編
17:15 近藤史(神戸大学大学院農学研究科地域連携センター・研究員)
対立回避の事例報告:イリンガ州ンジョンベ県

10月30日(日)
9:00 加藤太(信州大学農学部・研究員) 牧民と農耕民の対立と共生―タンザニア・キロンベロ谷の事例
10:00 田村賢治(地域計画連合 国際グループ・シニアプランナー) タンザニアにおける水田稲作と水争いの現状
11:00 総合討論
12:00 掛谷誠(京都大学・名誉教授) 総括